「勇気がある、僕にはできない」加藤シゲアキが注目する作家・蝉谷めぐ実に聞いたデビューまでの道のり
タレントで作家の加藤シゲアキさんが注目するデビュー3年目の作家がいる。今年5月に4作目となる時代小説『万両役者の扇』(新潮社)を上梓した蝉谷めぐ実だ。 デビュー作『化け者心中』がベストセラーとなり、女形の妻の生き様を描いた2作目の小説『おんなの女房』で吉川英治文学新人賞を受賞した蝉谷作品の魅力とは? *** 加藤 新刊、刊行おめでとうございます。2年前に出た『おんなの女房』(KADOKAWA)は評判を聞いて手にしたのですが、僕が俳優業をしているというのもあって楽しく読ませていただきました。この『万両役者の扇』もそれと近しいテーマなのに、全く違う構成や見せ方で持っていくあたりが本当にすごいなと思いました。僕は似たテーマを書くのは難しいと思うタイプなので、なおさら。 蝉谷 ありがとうございます。『おんなの女房』についてはラジオでも話していただいて。 加藤 あ、ご本人にも届いていましたか。ともかく面白かったから。作家同士でも、蝉谷さんのお名前はよく出ますよ。蝉谷さんの小説は、けっこうグロテスクだったり残酷だったりする場面があって、こと今回の新刊に関してはそういった部分がより多いのですが、文体とテーマとストーリーテリング力が合わさってお見事でした。僕はあまり歌舞伎を観たことがなく、歴史小説にもそんなに明るくないので、偉そうなことは言えないんですけれど。蝉谷さんはもともと歌舞伎がお好きだったんですか? 蝉谷 そうですね。小さい頃は、よく祖母に連れて行ってもらって観ていました。でも当時は歌舞伎独特の煌びやかさに惹かれていたという感じで、その後、ずっと観続けていたというわけではなくって。大学で江戸時代の歌舞伎についての授業を受けて、ずどんと役者の人生にはまりました。 加藤 役者の人生にはまる、ということがあるんですね。 蝉谷 そうなんです。江戸時代の歌舞伎は今よりも随分と役者と観客の距離感が近くて、例えば、舞台がはねたあと金持ちの客なら役者と直接会うことができたりして、そういう部分も面白いなあと。加藤さんのご著作については、私は『ピンクとグレー』(2012年、KADOKAWA)を本屋で見かけて、アイドルが書く小説か、どれどれというとんでもなく失礼な入り方をしてしまったのですが、読んだ瞬間打ちのめされました。 加藤 思うつぼですね。 蝉谷 もう終わった、と思いました! 加藤 終わった!? 始まってもいなかったでしょう? (笑) 蝉谷 はい。作家デビューの野望を抱いて書き始めていた時期に読んだんです。いろんな作品を読んで、どういうものを書けば作家になれるんだろうと模索していたときだったので、これほどのものが書けなければ作家になれないのか、もう終わりだ! と(笑)。 加藤 『ピンクとグレー』は蝉谷さんの作品とシンクロするところもありますよね。虚実が合わさっていくところとか、役と人間が一つになっていくところとか。 蝉谷 そうですね。ただ、描写や言葉の選び方は、俳優である加藤さんならではのところが沢山ありますよね。でもそうかと思えば『オルタネート』(2020年、新潮社)では、お芝居や演劇ではない分野なのに素晴らしい小説を書かれるから、また終わったなと絶望することに。 加藤 いやいや、終わってないです。むしろ蝉谷さんの作家魂に火をつけちゃってる(笑)。