ハリルJ、韓国長身FWを止めた守備力の背景
槙野がキム・シンウクに身体をぶつけて自由に飛ばせなければ、近くにポジションを取っていたパートナーの森重がサッとカバーに入る。さらにキーマンとなったのが、この日が代表デビューとなった藤田直之である。ディフェンスラインの前にひとり陣取るアンカーのポジションに入り、韓国のトップ下、8番のチュ・セジョンをマークすると同時に、森重や槙野が競り合ってこぼれたボールを回収する役目を担った。北朝鮮戦からの改善点について、藤田が語る。 「初戦は大きいFWにやられて2失点してしまったけど、この試合ではあそこでヘディングされてピンチを招くシーンはなかったと思うので、そこは中盤のセカンドボールを拾う意識を含め、確実に改善されたんじゃないかと思います。あれだけ大きいFWがいればCBが弾き返すのは難しい。相手のトップ下に自分が付いたり、槙野が競ったら森重がしっかりカバーしたり、そういう役割はしっかりできていたと思います」
韓国に押し込まれる時間帯がなかったわけではないが、北朝鮮戦のように、ロングボールやクロスのこぼれ球を拾われ、二次攻撃、三次攻撃につなげられたシーンが少なかったのは、状況に応じて守備ブロックの位置を変えただけでなく、前線から最終ラインまでをコンパクトに保ち、チャレンジ&カバーの役割をはっきりさせたこと、それをピッチ内で選手たちがコミュニケーションを取りながら、柔軟に対応したからでもあったのだ。 森重のハンドによる不運なPK判定はあったものの、キム・シンウクをシャットアウトした槙野が胸を張る。 「今日の試合では、僕や森重が指示を出し、“どこから行くのか”といった意思の疎通が図れていた。前線の選手は“前からプレスに行きたい”と言っていましたけど、僕らが“待て”とか“今は我慢するときだ”とか“今は行こう”とかを伝えて、そのメリハリがうまくいった。前の選手をうまくコントロールできたんじゃないかと思います」 その枯れた声は、試合中、ずっとコーチングし続けた証だった。 ゲームコントロールに不満が残り、山口のゴールで同点に追いついたものの、チャンスの数は決して多くない。2戦目を終えた時点で大会連覇の芽が潰え、ハリルホジッチ監督の采配にも疑問の残る点はある。だが、即席チームの難しさのなかにも成長の跡はたしかに見えた韓国戦だった。 (文責・飯尾篤史/スポーツライター)