最期まで自宅で暮らしたい…年金140万円「90歳父の願い」はわかっていたが、年収250万円の64歳娘は限界。やむなく「特養」を勧めた後悔【CFPが解説】
老老介護や介護離職といった事態を避けるためにも、老人ホームは有効な選択肢のひとつでしょう。一方で、老人ホームへの入居をめぐり、本人だけでなく家族が頭を悩ませるケースもあって……。本記事ではAさんの事例とともに、家族介護のあり方と老人ホームの選び方について、CFPの伊藤貴徳氏が解説します。 【早見表】毎月1万円を積み立て「預金」と「NISA」を比較…5年~40年でどれくらい差がつくか
日本の「老老介護」の現状
日本の少子高齢化が進む中、高齢者が高齢者を介護する「老老介護」は年々増加しています。厚生労働省の「令和6年度版厚生労働白書」によると、2022年には介護者と要介護者の約8割が60歳以上同士、約4割が70歳以上同士であることが報告されており、高齢者同士が支え合う現状が浮き彫りになっています。 また、家族が介護のために仕事を辞める「介護離職」も問題であり、働き盛りの世代が家計を支える役割を放棄せざるを得ない状況となっています。総務省の「令和4年就業構造基本調査」によれば、年間約10万人が介護を理由に離職しており、経済的な負担や将来の生活設計に影響を与えています。 このような背景から、多くの家族が「自宅介護」ではなく、老人ホームのような専門的な施設での介護を検討するようになっています。 老人ホームを利用するメリットとして、 ・24時間の介護体制が整っている ・介護の専門職が医療やリハビリのサポートを提供してくれる ・家族の身体的・精神的負担が軽減される 上記の点が挙げられます。さらに、一定の生活リズムや医療管理が確保されるため、認知症の進行抑制や生活の質の向上が期待されます。 しかし、老人ホームを選ぶ際には費用面や居住環境、家族の関わり方など、さまざまな要素を考慮する必要があります。特に、特別養護老人ホーム(特養)や介護付き有料老人ホームなど、施設ごとに異なるサービスや費用が存在するため、家族の考えに応じて選択するかが必要となります。
90歳父を介護する娘の葛藤
〈事例〉 ・父・Aさん(90歳):年金140万円で生活している独居の高齢者。体は動くが、認知症の症状が進行している。 ・娘・Bさん(64歳):年収250万円の契約社員。自身も年金生活が近づきつつあり、限られた収入で父の介護費用を捻出している。 Bさんは、実家で一人暮らしをしている父Aさんの介護を一人で担っていました。Bさん自身は64歳で退職も間近、将来の経済的不安も抱えているなか、父の世話が次第に負担となり、体力的・精神的な限界を感じていました。 父Aさんも認知症の影響で日常生活が難しくなり、訪問介護などの支援を利用しても限界が見え始めていたため、Bさんは老人ホームの利用を検討するようになります。Bさんは老人ホームの候補を調べ、いくつかの施設を見学しました。 介護付き有料老人ホームでは、医療ケアが充実しており、父のような認知症の進行がある場合でも安心だと感じましたが、年金と自分の収入から賄うのが難しいと感じ断念しました。そのため、親族と相談して特別養護老人ホームで支援を受けることを決め、最終的に父を入居させることを決断しました。 ある日、父Aさんへ特別養護老人ホームへの入居を提案した際、父は「自宅で最後まで暮らしたい」と強く希望しました。しかし、Bさんには自身の体調や仕事があり、父の介護をしながらの日常生活は困難を極めていたのです。 「お父さん、私もこれ以上1人で頑張るのは難しいの」とBさんが父に語りかけると、Aさんはしばらく沈黙したのち、静かに答えました。「私も家にいたいが、皆に迷惑をかけてしまうなら、施設に入ることも考えないといけないかもしれないな」。この言葉にBさんは涙があふれましたが、父のためにも最善の環境を探そうと決意しました。