【日本製鉄のUSスチール買収、バイデン氏が阻止の最終判断か】「揉めることはわかっていた」という橋本英二会長が語った“成長へのチャレンジ”という信念、「アメリカが魅力的になったのはトランプ政権から」
日本製鉄のUSスチールの買収提案に対し、安全保障上の懸念があるかについて審査していた米政府の省庁横断組織「対米外国投資委員会(CFIUS)」は審査の結果、「省庁間の協議がまとまらなかった」として最終判断をバイデン大統領に委ねた。政権トップの判断は年を跨いだ15日後まで先延ばしされたかたちだが、2023年12月に日鉄の社長として買収計画をぶち上げ、その旗振り役となってきた橋本英二氏(現・会長)の次の一手とは――。 【写真】日本製鉄による買収支持を表明するUSスチール社の従業員
米製造業の象徴的な企業ともいわれるUSスチールだが、日本製鉄による買収には全米鉄鋼労組(USW)が一貫して反対してきた。USWは約120万の組織票を持ち、その本部があるペンシルバニア州は、近年の大統領選で必ずと言ってよいほど最後の激戦地となってきた。 労組票をめぐる政治的なパフォーマンスは「阻止する、絶対にだ」と強気のトランプ氏が際立ってきたが、バイデン大統領も競うように「米国内で所有、運営される米国の鉄鋼企業であるべき」と消極的な声明を出してきた。大統領選はトランプ氏の勝利に終わったが、両陣営とも同盟国の企業に対しても厳しい姿勢を崩していなかった。 バイデン政権の判断が出る直前、ノンフィクション作家・広野真嗣氏の独占インタビューに対し、橋本氏は「揉めることはわかっていた」と語っていた。それでもこの難事業に活路を見出し、2兆円の巨額買収に乗り出したのはなぜなのか。米中対立が深まる世界経済の中で、日本はどうやって生き残ればよいのか、橋本氏は、「成長にチャレンジする経営」について90分にわたって質問に答えている(全文はこちら)。 とりわけ興味深いのは、いつからアメリカを狙ってきたのかという点だ。橋本氏は「アメリカが魅力的になったのは、トランプが1期目の大統領になった2016年以降ですよ」と答えていた。
「アメリカを手に入れなくてはいけない」
「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン」と唱えたトランプ氏は、日本車への追加関税をちらつかせるなど海外企業の締め付けに心血を注ぎ、脅威と受け止められていたが、製造業の未来に焦点を絞っていた橋本氏の見方は少し違う。 「これは、製造業をアメリカ国内に取り戻す動きで、時代が変わったなと。“アメリカで売りたければここにきて作れ”ということですよね。つまり高級品主体の鉄の需要が最終消費地のアメリカに戻る流れが始まった」 それまでアメリカではパソコンや携帯電話などの工業製品は安くて高品質の完成品を中国や日本から輸入することが国益につながるとされてきたが、パラダイム転換が起きた。橋本氏はこう続けた。 「もともとアメリカは出生率も高く、移民で人口も増えていて、軍事や科学技術、資源もある。アメリカファースト、と唱える大統領が登場したわけで、鉄の需要が高まる流れは、今後も大なり小なり続く。だから、新興国のインドに加えてもう1つ、先進国のアメリカを手に入れなくてはいけない、と考えた」 従来からの国内志向を脱ぎ捨て、海外で勝負に出る姿勢が橋本氏の真骨頂だろう。2019年4月に社長に就任してからは、海外での大勝負に出るために必要な改革も進めてきた。2020年3月期には過去最大の4300億円の最終赤字を計上していたが、2023年3月期は2年連続となる過去最高益を更新。V字回復を果たした。そうして挑んだ巨額買収の夢はもう潰えるのか――。 現在、「マネーポストWEB」では、橋本会長のインタビュー記事4本を全文公開している。別記事〈【独占インタビュー】日本製鉄・橋本英二会長「USスチールの買収チャレンジは日鉄の社会的使命」、社内の賛否両論を押し切った決断の経緯〉などで、USスチール買収に懸ける思いや海外に打って出て成長を目指すことが必要な理由が語られ、そうした考えを抱く原点でもある貧しかった少年時代の思いまでを明かしている。
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