【公演レポート】下鴨神社で読む父娘の物語、中井和哉・下野紘・銀河万丈・上田麗奈の「鴨の音 第五夜」閉幕
昨日10月27日に京都・賀茂御祖神社(下鴨神社) 舞殿で「READING WORLD 世界文化遺産 下鴨神社 朗読劇 鴨の音 第五夜」が閉幕した。 【画像】「READING WORLD 世界文化遺産 下鴨神社 朗読劇 鴨の音 第五夜『浅黄の桜』」より。(c)Thanksgiving(他11件) 「鴨の音」は2020年に始動した、下鴨神社で行われている朗読劇シリーズ。今年8月には土地と声優の声の力を掛け合わせた朗読劇「READING WORLD」としてシリーズが拡張され、京都府舞鶴市にて朗読劇「約束の果て」が上演された。今回の「鴨の音」は5度目の開催となり、「浅黄の桜」のタイトルで灯敦生が脚本、岡本昌也が演出を務め、出演者には中井和哉、下野紘、銀河万丈、上田麗奈が名を連ねた。 日が暮れて秋の涼やかな夜風が吹く頃に「鴨の音」は開演する。会場となる舞殿には、コの字型の客席に対する3方向と舞台中央にマイクが並べられ、真ん中には黒くて丸い鳥のぬいぐるみが置かれた。舞殿から客席に向かって成功祈願が行われたあと、公演が始まる。 物語は、上田演じる咲坂さくらの幼少期の描写からスタート。屋根から飛び降りるような活発な少女・さくらは、家族に結婚相手を紹介するタイミングで彼の浮気が発覚し、1人で帰省することに。そこで、幼なじみの牧風磨(下野)と再会、さらには他界した実父・長門平治(銀河)の魂が八咫烏のゆるキャラ“でにがらす”のぬいぐるみに宿り、さくらの新たな恋を巡って摩訶不思議なやり取りがコメディタッチで展開される。 でにがらすの声はなぜかさくらにだけは聞こえず、さくらの継父で平治の後輩でもある咲坂幸四郎(中井)や風磨を通してさくらに伝えられる。中井は、幸四郎の人の良さと継父の立場としての気遣いを程よい軽さで演じ、掛け合いのテンポや間で何度も笑いどころを作った。下野は、さくらに好意の裏返しのような態度を取り、いつまでも行動に移すことができない風磨の目まぐるしい感情の変化を、マイク外で叫ぶなどして豊かに演じ、最後にはさくらと“男前”に向き合う風磨の成長を好演した。 一方、銀河は平治の父親たる威厳とチャーミングさを共存させ、言葉が交わせない娘とのカラオケでは歌声も披露。さくらとの回想シーンや死してなお娘を心にかける姿から、父親の“温かなまなざし”を声に乗せて届ける。また上田は、屋根から飛び降りた際に負った頬の傷を教訓に、波風立たせぬよう生きてきたさくらの、自己犠牲に流れそうになる気の弱さや、幼なじみに対する鈍感さをリアルに表現。多彩な声色で、さくらのさまざまな心情をすくいとった。 本作では、鴨川の描写や路線バスのアナウンスなどを通して、物語に京都の街の雰囲気が立ち込める。「鴨の音」の会場となる下鴨神社は、賀茂氏の祖神とされる賀茂建角身命と、その娘・玉依媛命を祭神に祀る神社。「浅黄の桜」では生死を超えた現代の父娘の物語を軸に、時間と共に変わりゆく人と人との関係性、変わらぬ記憶や思い出、かけられた言葉といった、はかなくも美しい人々の営みが、笑いあり涙ありで軽やかに立ち上げられる。真っ暗な糺の森を抜け、ポツンと現れる奉納提灯に誘われて、まるで秘境のライブのように行われる朗読劇は、胸に温かな余韻を残した。 上演時間は約1時間40分。本公演ではStreaming+にて生配信のアーカイブが、10月26日公演が11月1日まで、10月27日公演が11月2日まで視聴できる。 ■ READING WORLD 世界文化遺産 下鴨神社 朗読劇 鴨の音 第五夜 2024年10月26日(土)・27日(日) ※公演終了 京都府 賀茂御祖神社(下鴨神社) 舞殿 □ スタッフ 脚本:灯敦生 演出:岡本昌也 □ 出演 中井和哉 / 下野紘 / 銀河万丈 / 上田麗奈 声の出演 野沢雅子 / 皆口裕子 / 三木眞一郎 / 岸尾だいすけ / 小野大輔 / 島﨑信長 / 佐倉綾音