世界最先端フェス「C2C」に学ぶ 文化的価値と持続性の両立、音楽と都市の未来
持続可能性とオーセンティシーの両立
―C2Cでは他のフェスではあまり見られないようなユニークなオーディエンスが集まっていますよね。 セルジオ:昨年は4万人のオーディエンスがきたけど、幸運なことは、君が言ってくれたように世界中から僕たちがやっていること、目指していることに強く共感してくれる素晴らしいオーディエンスを集めることができていることだと思っている。彼らは、ArcaやCaterina Barbierをポップ・スターとして崇拝するような注意深く熱狂的な人たちであり、C2Cが音楽、テクノロジー、ビジュアルといったさまざまなメディア環境を通して何をしようとしているのかを理解してくれている。 ―インディペンデントな音楽フェスが事業の安定性を確保するのに苦戦するなか、C2Cはどのように持続性を保っているんでしょうか? セルジオ:C2Cのパートナーには、Stone IslandやGUCCIといったファッションブランドに加えて、ユヴェントスといった世界的なサッカークラブも名を連ねている。これまで彼らのようなカルチャーに対する強いリスペクトと責任感をもった世界的に有名な素晴らしいブランドと仕事をする機会に恵まれてきたのはとても幸運なことだと思う。 ユヴェントスは、地元トリノのサッカークラブで、世界最大のチームのひとつだけど、同時に女性チームを持ち、サッカーにおけるジェンダー平等の問題に対して早い時期から取り組んできたサッカークラブのひとつでもある。僕たちはユヴェントスとパンデミックの時期からコラボレーションをしているけど、彼らは音楽やカルチャーにとても興味を持っていて、とても自然な形でコラボレーションをスタートすることができた。最初のコラボレーションは、2021年にユヴェントスのユニフォームのサードキットの発表イベントをホストしたことだった。このキットは、トリノのクラブカルチャーにインスパイアされていて、トリノが築き上げてきた音楽カルチャーを称えるものだったんだ。素晴らしいコンセプトだよね。 ―2022年のフェス期間中には、Romyが試合前にスタジアムでDJをしていましたよね。 セルジオ:よく知っているね。あの時僕たちがやりたかったのは、フェスの期間中にRomyのような優れたアーティストによる音楽をローカルのスタジアムに届けることだったけど、ユヴェントスにとっての関心とは常に単なるマーケティングではなく、 僕たちと一緒にサッカーとカルチャーをつなぐ新しくてユニークなフォーマットをつくることなんだ。彼らはトリノのクラブとして、今でも地元のカルチャーシーンをサポートし、世界的に素晴らしい才能を祝福するために僕たちをサポートしてくれている。ユヴェントスのような巨大なサッカークラブが地元のクラブ・シーンのために尽力するなんてことが想像できる? このようなコラボレーションができたことは本当に光栄だったとしか言いようがないよ。 ―コラボレーションを開始するにあたって、ユヴェントスとC2Cの間でどのような会話が交わされていたのか、とても気になります。 セルジオ:まず言っておかなきゃいけないのは僕自身がとても熱心なユヴェントスのサポーターだってことだね(笑)。だから実を言うと、このコラボレーションは試合中にスタジアムで交わされた会話から生まれたもので、このコラボーションの間に代理店やエージェンシーがいたことはない。僕たちがパートナーと仕事をする時はいつも間に代理店を入れることはないんだ。Stone IslandやGUCCIといったブランドとのコラボレーションでも同じだよ。 ―代理店がいないのは大変ではないですか? セルジオ:多くの人たちにとってはそうかもしれないね。音楽フェスにとって経済的な持続可能性が極めて重要であることは言うまでもないし、僕たちも自分たちで設定した財政的な目標には常に注意を向けているけど、重要なのはフェスの真正さ(authenticity)と信頼性(Trust)を維持することだ。 「Avant-pop」のコンセプトで示したように、C2Cフェスは現代のアヴァンギャルドなアーティストを発見し、彼らによるユニークなシーンを代表する責任と名誉を担っている。だから、コラボレーションが単なる企業のマーケティングツールで終わるようなことはあってはならないし、アーティストやコミュニティを支援する革新的なコラボレーションのあり方を提案していくことが、僕たちにとって何よりも重要な仕事になるんだ。 ―C2Cはまさに、経済的な持続可能性とイベントのオーセンティシー(真正さ)の両立を実現しているように見えます。 セルジオ: ありがとう。他にもStone Islandとは、2020年から創業家と直接仕事をしているけど、信じられないようなプロジェクトをこれまでやってこれたと思っているよ。彼らとは、メインストリームの表層にある音楽をこえた深層にあるアヴァンギャルドなアーティストたちを掘り下げ、シーンに種をまくためのプロジェクトを行っている。これは新たなカルチャーを作るためのプロジェクトで、マーケティングやエンタテイメントの領域で行われることとはまったく違うものなんだ。 実際に、僕たちのコラボレーションは、プレイリストのキュレーションから、レコードのリリース、ライブ・イベントまで多岐に及んでいる。ライブ・イベントはこれまでロンドン、ミラノ、ベルリンで開催してきて、Arooj Aftab、Beatrice Dillon、Bill Kouligas、Jockstrap、KMRU、Nala Sinephro、Obongjayar、Pa Salieu、Pelada、Silvia Kastel、Sons Of Kemet、Two Shellといったアーティストが出演している。 Stone Islandとこのようなプラットフォームを持つことは、僕たちが信じるアーティストやシーンをプロモートするためにおいてもとても重要なんだ。実際に、彼らと紹介したアーティストの何人かはより知名度をあげて、ブランドのショーに招待されたり、アンバサダーになったりしたこともある。 ―とても面白いです。パートナーシップにおいて集客数や露出といった「面」の大きさに価値を置くブランドや企業がある一方で、Stone IslandはむしろC2Cの「目利き力」のようなところを信頼し、価値を置いているんですね。 セルジオ:そうかもしれないね。ただ、僕たちにとってもStone Islandとコラボレーションすることで、自分たちのフェスとは異なるやり方で、アーティストをマッピングすることができるようになっている。僕たちにとって大切なのはすべてのコラボレーターにとっての「共通の遊び場」(common playground)を一緒に作ること。他者とコラボレーションするための唯一の方法はこれに尽きると思う。