注目の「やせ薬」の思わぬ効果が続々、心臓・腎臓・依存症のほか予期せぬ妊娠にも関連か
慢性腎臓病
慢性腎臓病を患う人は世界で約8億5000万人いると見られるが、有効な治療法はほぼ存在しない。これまでは主に、腎不全の進行をできるだけ遅らせ、進行したら透析を始めるか腎移植を待つしかなかった。しかし患者の10人中9人は、その段階に達する前に合併症で死亡する。 近年、いくつかの研究により、GLP-1受容体作動薬のデュラグルチドが、慢性腎臓病と2型糖尿病を抱える患者に効果があることが示されている。 また、慢性腎臓病と2型糖尿病を抱える患者に対して、セマグルチドの効果を検証するために最近行われた臨床試験では、この薬が慢性腎臓病の進行を遅らせるのにあまりに効果的であったため、試験が早い段階で中止され、参加したすべての患者がこの薬の恩恵を受けられるようにする措置が取られた。 米ワシントン大学医学部の腎臓病専門医で、この試験の管理委員会のメンバーであるキャサリン・タトル氏によると、腎臓に対して見られた効果のうち、血圧、血糖、体重などのリスク要因の減少によるものはごく一部に過ぎず、大部分は炎症の減少によるものである可能性が高いという。 「セマグルチドには強い抗炎症作用があります」とタトル氏は言う。「われわれの分野では、とりわけ糖尿病が腎臓に与えるダメージにおいて、炎症の重要性への認識が低すぎます」 臨床試験の結果は、2024年内に公表される予定だ。
不妊への効果
オゼンピック(セマグルチド)やマンジャロ(チルゼパチド)などのGLP-1受容体作動薬を使う患者が増えつつある中、驚きの副作用のひとつと見られているのが予期せぬ妊娠だ。中には、何年も不妊に悩まされていたのに妊娠したという患者もいる。 GLP-1受容体作動薬と妊娠の関係についてはさらなる研究が必要であるものの、「オゼンピック・ベビー」が流行語になるほどの規模の現象が起こっているのは確かだ。専門家は、これにはいくつかの要因があると考えている。 一つ目は、GLP-1受容体作動薬が胃を空にするのを遅らせることであり、これによって経口避妊薬が体に吸収されるスピードが遅くなる。そのせいで、経口避妊薬が十分に効果を発揮しなくなる可能性がある。 二つ目は、女性の不妊の原因となる「多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)」とインスリン抵抗性(インスリンの働き具合が悪い状態)との関連にある。 「インスリン抵抗性は、卵巣周期の調整を狂わせます」と、米ヒューストン・メソジスト病院の内分泌学者アーチャナ・サドゥ氏は言う。インスリン抵抗性は、エストロゲンやテストステロンといった生殖能力に関連するホルモンのバランスを乱し、また、卵巣からの卵子の放出に影響を与える可能性がある。患者がGLP-1受容体作動薬を使い始めると、インスリン抵抗性が改善し、それが生殖能力を向上させると考えられる。 ただし、これらの薬の妊娠に対する効果は未知数であり、利用する患者は、妊娠や避妊の計画について医師とよく相談することが重要だ。