「『くるみ割り人形』を観劇 私のなかに眠っていた乙女心が一瞬で戻ってきたよ!」ジェーン・スー
作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。 【写真】この記事の写真をもっと見る * * * 幕が開いた瞬間、私のなかに数百年眠っていた乙女心が間欠泉のように噴きあがり、心がときめきで満たされました。なんて可憐な世界! Kバレエ公演「くるみ割り人形」のはじまり、はじまり~。 ご存じ、クリスマスイブにプレゼントされたくるみ割り人形と一緒に、人形の世界を旅する少女クララのお話。私は子どもの頃にサンリオ制作の映画で観ました。1979年3月公開なので、当時の私は5歳! 内容をきちんと理解できた記憶はなく、少し怖かったのだけ覚えています。 あれから幾星霜。ラジオ番組のゲストにKバレエカンパニーの飯島望未さんが来てくださったご縁で、45年ぶりに、本来のバレエ作品を観ることが叶いました。 前回観たバレエ作品は「白鳥の湖」。こちらも素晴らしい作品ではあったものの、バレエ初心者の私にとっては展開がわかりやすい「くるみ割り人形」のほうがついていきやすく、バレエの素晴らしさを満遍なく堪能することができました。加えて衣装や舞台装置などの美術がとんでもなく繊細で、豪華で、美しい。 数十年前、クララくらいの年齢だった頃の私にも、こういったファンタジーの世界に憧れる心は確かにあったのです。自分がその世界の住人になった気持ちで、うっとりしていました。しかし年月が経つにつれ、私にはこういう可愛らしいものは似合わない、恥ずかしい、子どもっぽいという感情が生まれ、敬遠しているうちに完全に疎遠になってしまった。 もう、ファンタジーの世界を愛でるみずみずしい感性は残っていないと思っていたのに、「くるみ割り人形」で一瞬で戻ってきたよ! 第1幕の最後は雪の舞い。妖精のようなダンサーたちの可憐な群舞と天から降り注ぐ雪片の美しさに、幕が閉じる瞬間「終わらないで」と祈ったほど。 2幕はさまざまな人形たちが次から次へと披露するダンスが楽しく、目に入るすべてが心の滋養になるような時間。なによりマリー姫を演じる飯島さんの華麗な舞いに息が止まりそう! 美しさにもため息が漏れすぎて、呼吸困難になりそう! 子どもの頃、ファンタジーの世界に憧れながらも、現実の自分との乖離に悩んで距離をとっていた、私のような大人も少なくないと思います。そんな人にこそ観てほしい!あなたの乙女心、まだ残っていますよ! じぇーん・すー◆1973年、東京生まれ。日本人。作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニスト。著書多数。『揉まれて、ゆるんで、癒されて 今夜もカネで解決だ』(朝日文庫)が発売中。 ※AERA 2024年12月9日号
ジェーン・スー