アラセツ行事で豊作祈願 稲魂招き、ネリヤに祈る 龍郷町秋名・幾里地区
旧暦8月の初丙(はつひのえ)に当たる9日、鹿児島県龍郷町秋名・幾里地区に伝わるアラセツ(新節)行事の「ショチョガマ」と「平瀬マンカイ」が、同地区の山腹と海岸で行われた。地域住民らが今年の収穫に感謝し来年の豊作を祈願。雨が降りしきる中、多くの人が伝統の祭事を見守った。 「ドン、ドン、ドン」。夜明け前の午前5時すぎ、集落と田袋を見下ろす山の中腹に建てられたショチョガマ(片屋根のわらぶき小屋)でチヂン(太鼓)が打ち鳴らされ、祭りが始まった。祭壇には赤飯とミキ、焼酎が供えられ、グジ(ノロの男きょうだい)役が稲の精霊「ニャダマ(稲魂)」を南北から呼び寄せる祭詞を唱えた。 ショチョガマに乗った男衆約100人は「ヨラ、メラ」の掛け声で小屋を揺さぶり、午前6時半ごろに小屋が南側に倒れた。人々はその場で八月踊りを舞い、喜びを分かち合った。 秋名アラセツ行事保存会の窪田圭喜会長(83)によると、小屋が南側に倒れると豊作になると昔から言い伝えられているという。屋根にはダンチク(暖竹)の葉が飾られており、稲穂が重く垂れるくらい実るようにとの願いが込められている。 最前列でチヂンをたたいて豊作を願う節を歌った西田誉さん(40)は「今回は太鼓打ちの4人全員が50代以下の若手。小さい頃からなじみのある行事なので(継承を)頑張りたい」と話した。
平瀬マンカイは午後4時ごろから、海岸の二つの岩の上で行われた。沖側の「神平瀬」には白装束を身にまとったノロ役の女性5人、集落側の「女童(メラべ)平瀬」には補佐役の男女7人が上って向かい合い、歌の掛け合いと手舞いを繰り返して海のかなたの楽園「ネリヤ」の神々に豊作を祈願した。 最後は保存会の面々がその場で八月踊りを披露し行事を締めくくった。例年、平瀬マンカイの後に浜で行う宴会は雨天のため秋名集会場で実施。見物人らも一緒になって八月踊りの輪を広げ、食事を囲んで団らんした。 窪田会長は「若手が元気づいてきて後継者として不足無い。行事が秋名・幾里の文化の原点となっていくことを願っている」と話した。
◆メモ◆
秋名アラセツ行事は、収穫に感謝し五穀豊穣(ほうじょう)を祈る稲作行事。保存会の窪田会長によると、ショチョガマはかつて秋名・幾里地区内の3カ所で実施していたが現在は1カ所のみが残る。以前は平瀬マンカイと同じ時間に、対岸の浜でも人々がごちそうを持ち寄ってお祝いをしていたという。 行事は戦中戦後に一時途絶えたが、1960年に保存会がつくられ復活。85年に国の重要無形民俗文化財に指定された。新型コロナ下では中止や縮小を余儀なくされたが、昨年から通常開催している。