藤原季節「自分じゃだめなのか」 約2年ぶりの映画出演で抜け出した葛藤の日々「何が起こるか分からない」
台詞の言い回しのクセで苦戦
本作では、秘密を抱える小説家・牧雄一郎を演じた。 「感情を削って棒読みの状態にしていくという方法で何度も本読みをやりました。それは監督の意向だったのですが、僕も役の感情は現場で出てくるものだと思っています。ひたすら感情を削り続ける作業をしたことで、より現場で生まれてくる演技を立体的にすることができたので、ありがたかったです」 一方で、映画の世界を離れて修行していたことによる苦労もあったようだ。「どうしても台詞の言い回しが舞台寄りになって、“か行”や“さ行”などの子音を立てて話すクセがついていました。それだと映画においてはハキハキと聞こえすぎてしまうので、監督と話し合いながら台詞を“日常会話”に戻せるように意識しました」。 さらに、牧というキャラクターを作り上げるのに欠かせないものとなった“あるもの”が事前に監督から配られていたという。 「作品に登場する11人の、ホテルに閉じ込められる前日譚を短編小説にして配ってくれました。牧くんがどんな仕事や恋愛をしていて、どんな思いを抱えて生きていたのかが書いてあるんです。それは肌身離さず持っていました。自分の役の分しか読めないという決まりだったのですが、僕だけには最後のシーンの撮影の直前に『全員分を読んでもいいよ』と言ってくださって、読んでから撮影に挑みました。それぞれの人物を背負って対峙(たいじ)するシーンだったのでより覚悟を持って演じることができました」 そうして作り上げられた牧が主人公となる本作。ホテルから出られなくなった12人の人間たちが「非暴力、不干渉、相互扶助」の三原則のもとで平和に暮らす中、1人の人物が遺体となって発見されたことで、12人のユートピアが揺れ動いていく。 「人間生きていると取り返しのつかない失敗とか過去を悔やむことがあって、心のどこかで『隕石降ってこないかな』みたいな、まっさらな世界になってほしいという願望を実は持っていると思っています。そんな願望を実現させてしまったのがこの映画なんです。過去も未来もこれまで築いてきた人間関係も存在しない無秩序な世界で、彼らが何を選択して何を感じて、どんな自分になって生きていくのかを考えるということが見どころになっています。自分がこの中にいたらどう生きるのかということを考えるのはすごくいいんじゃないかなと思います」
水谷賀奈子