孤高で自由、自身の力で人生を切り開く女性を描く「ブラックバード、ブラックベリー、私は私。」監督インタビュー
ジョージアの新進女性作家の大ヒット小説を原作に、経済的に自立し結婚願望のなかった48歳の女性の初めての恋、孤独ながらも自由を謳歌し、自分自身の人生を正直に生きる日々を描き、カンヌ国際映画祭や大阪アジアン映画祭での上映が話題となった、「ブラックバード、ブラックベリー、私は私。」が公開となった。メガホンをとった新鋭エレネ・ナベリアニ監督がオンラインインタビューに応じた。 ――原作小説がジョージアで大ヒットしたとのことですが、映画はラストシーン含め、ほぼ原作どおりでしょうか? 監督が本作の映画化を企画した経緯、原作者の映画や脚本に対する感想や反応を教えてください。 私の映画を観た原作者は、最初に「私の知っているキャラクターとは違う」と言いました。ですから、原作に忠実であるかどうかという問いの答えとしたら、ノーでしょう。私にとって一番重要だったのは、私が小説を読んで受けたインスピレーションを映像にすることでした。原作どおりの映画にすることではなかったのです。 この物語は、エテルというキャラクターが、どのように自分の思いに忠実に人生を進めていくかが重要です。パワフルな女性ですが、原作そのものではありません。小説は非常に重く、情報量がたくさんあるので、映画の方が、観客の気持ちが軽くなったり、希望を感じられる物語になっていると思います。原作と映画は別の作品になったと思います。 ――主演のエカ・チャヴレイシュヴィリさんが素晴らしい演技を見せています。彼女を起用した経緯を教えてください。ジョージア国内で知名度の高いベテランの俳優さんなのでしょうか? エカは、主に舞台で活躍していた俳優です。ですから、ジョージア国民のだれもが知っている、という俳優ではありませんが、近年、映画やテレビでも活躍の幅を広げています。彼女と私の出会いは、私の過去作「ウェットスタンド」で、小さな役を演じてもらったことから始まります。彼女と撮影をして、何かを依頼すると、私のリクエストにプラスアルファを加え、よりよい演技で応じてくれるのです。ですから、彼女との仕事は、エンドレスに良いものができるという確信がありました。 そんな風に私は素晴らしい俳優だと思っていたので、原作を読んだときに彼女を思い浮かべ、ある意味、エカをイメージして脚本を書いたとも言える感覚でした。ですから、最初から彼女をキャスティングしたかったですし、彼女のおかげで私が思った以上の作品になったと思います。 ――あなたのこの作品は第73回カンヌ国際映画祭でも上映され、話題を集めました。最近ではデア・クルムベガスビリ監督「四月」が日本の映画祭でも高く評価され、名匠ナナ・ジョルジャゼ監督をはじめとし、日本や他国と比べてもジョージアは女性監督の存在を大きく感じます。ジョージアの映画界では古くからジェンダーは関係なく、実力のある監督は平等にその手腕を発揮できる土壌があるのでしょうか。 1990年代以前のジョージアの映画産業はソ連の影響が大きいものでした。しかし、2000年代に入って状況が変化し、ジョージアの中でもインディペンデントなアート作品も意欲的に作られるようになりました。そうはいっても、現在の政府はとても危険な状況で、世界の時代の流れに逆行しているような感じ、映画にとっても良くなった時代を阻まれている感じがします。もちろん、勇気や信念をもって、体制に抗う女性監督もいますし、作品を撮りたくても撮れない作家もいます。ですから、実のところ、現在のジョージアは映画人にとってそれほど良い状況とは言えないのです。 ――オフビートな物語、色彩感覚や、ややレトロな音楽の使い方などアキ・カウリスマキ監督作品などを彷彿させます。あなたがこれまで影響を受けた監督や作品を教えてください。 カウリスマキ監督作品と比較されることはありますが、彼の作品を念頭に置いて映画を作ることはありません。もちろん彼の映画は観ていますし、影響を受けていないはずはないと思います。私は小さい頃から映画やアート、芸術が好きで多くのものに触れてきました。たくさんの映画を観て、自分の中に溜まったものを作品として出しているという感覚です。 好きな監督はライナー・ベルナー・ファスビンダー、彼のメロドラマが特に好きです。また、実験的な作品を作るバーバラ・ハマー、デレク・ジャーマン、ケネス・アンガー監督も好きです。しかし模倣しているわけではなく、私の作品は撮影監督とプロダクション・デザイナー、衣装スタッフと打合せをして作り上げていきます。