なぜ鹿島アントラーズはACL本大会出場権を逃したのか……背景に異常な過密日程
もっとも、1996年から強化の最高責任者を務める、鈴木満取締役フットボールダイレクターの目には「昨シーズンの後半戦よりはよかった」と映っていた。4冠独占の可能性を残しながら勝負の秋になって大きく失速し、最終的には無冠に終わったのが昨シーズンだった。 「ただ、メンタルもフィジカルも(選手間で)バラつきがある点が、チーム全体の集中力というところにつながっていかない」 無冠に終わった昨シーズンからの捲土重来を期して、このオフには血の入れ替えを断行した。12人もの選手を放出。新たに獲得した11人のなかでもメルボルン戦で先発した和泉や奈良、DF広瀬陸斗(前横浜F・マリノス)、MF永戸勝也(前ベガルタ仙台)は始動までに1カ月近いオフを取っていた。 対照的に元日の天皇杯全日本選手権決勝までフル稼働した、三竿や土居をはじめとする主力組が宮崎キャンプに合流したのは今月16日。鈴木ダイレクターが言及したように、既存の選手と新戦力との間で心身のコンディションにバラつきが生じている状況は否定できない。 原因をさかのぼっていくと、どうしても元日に行き着く。昨シーズンの明治安田生命J1リーグで3位に入り、今シーズンのACLへプレーオフから参戦する権利を獲得していたアントラーズだったが、ヴィッセル神戸との天皇杯決勝を制していれば状況はまったく変わっていた。 天皇杯覇者にはACL本大会へストレートで出場できる。つまり、極めて稀有なケースとなるが、アントラーズは天皇杯決勝で勝てば比較的ゆっくりとした始動が可能となり、負ければ28日に組まれていたプレーオフへ向けて慌ただしい始動を強いられる状況下に置かれていた。
実際に0-2でヴィッセルに屈してから中6日で、新加入選手および昨シーズンのプレー時間が短かった選手、あるいはけが明けの選手だけで始動。主力組には選手統一契約書で最低限の期間として定められている、2週間のオフをあえて取らせてから宮崎合宿の終盤に合流させている。 「一番恐れているのが、ずっと主力で出場してきた選手たちの気持ちが燃え尽き症候群というか、なかなか高ぶってこないような状態に少しなってきていること。何年もこういう状況になっているとどこかにしわ寄せがくるし、昨シーズンもけが人が続出した時期があったので」 主力組や新たに加入したMFファン・アラーノ、FWエヴェラウドを含めた外国籍選手を遅れて始動させた意図を、鈴木ダイレクターはこう説明する。 新監督として外国人指揮官を招聘したこともあり、ただでさえチーム作りに時間がかかる。ならば、思い切って主力組を休ませる千載一遇の機会にあてたうえで、やり繰りしながら序盤戦を乗り越え、秋口から勝負をかける青写真へと描き直した。 しかし、メルボルンが勝ち上がってくれば厳しくなる、と覚悟していたシーズン初の公式戦でつまずいてしまった。ACLの舞台に立てなくなったアントラーズは、自動的にYBCルヴァンカップのグループリーグに組み込まれ、リーグ戦開幕前の来月16日に名古屋グランパスとの初戦を迎える。 「どこかで休ませなきゃいけないので、よかったと思うしかないかな。もちろん、よくはないけど」 ACL本大会に出場した場合に比べて、ほんの少しだけながらも緩和される今後の日程を見すえ、思わず苦笑いを浮かべた鈴木ダイレクターはこんな言葉を紡ぐことも忘れなかった。 「これを踏まえて、いろいろなことを考えていかなきゃいけない。クラブだけで考えてもどうしようもないところもあるし、サッカー界として考えていかなきゃいけないところもある。やっぱりちゃんと休養を取って、リフレッシュした状態で再びサッカーをして、クオリティーを高めていく、というしっかりとしたサイクルにしていかないといけない」 具体的に言及こそしなかったが、鈴木ダイレクターが訴えたかったのは天皇杯決勝のスケジュールとなる。初詣で明治神宮を訪れる参拝客の1%でもいいから、スタンドへ呼べないだろうか――人気低迷にあえぐ日本サッカー界を盛り上げる起爆剤として、伝統ある天皇杯決勝を旧国立競技場で、しかも元日に初めて開催したのは1968年度の第48回大会だった。 集客面だけでなく興行面でも狙いは的中し、天皇杯決勝は元日の風物詩として定着した。しかし、半世紀以上の時間が経過したなかでJリーグが産声をあげ、当時にはなかったACLやFIFAクラブワールドカップなどの国際大会も創設された。もはや時代にそぐわなくなったと言っていい。