『ワンダンス』『スーパースターを唄って。』……マンガ×HIPHOP、ネクストブレイクを予感させる二作に注目
映画、音楽、マンガやファッションーー従来それぞれが独自にカルチャーを育んでいた各コンテンツは、近年その境界線がどんどん曖昧になりつつある。 【写真】アルバム『オフ・ザ・ウォール』ジャケットのマイケル・ジャクソン アニメソングは今やずいぶん大衆的な音楽となったし、有名ファッションブランドと人気マンガのコラボレーションも近年ではよく見る光景だ。そんな様々なコンテンツ/カルチャーの垣根を越えた交錯があちこちで起こる中、近頃特に散見されるのが、作中で実在するアーティスト/音楽を多彩な形で取り上げるマンガ作品である。 2023年と2024年の「次にくるマンガ大賞」Webマンガ部門で第1位を獲得した『気になってる人が男じゃなかった』(KADOKAWA)や、『ふつうの軽音部』(少年ジャンプ+)、アニメ化から人気に火がついた『ぼっち・ざ・ろっく!』(芳文社)。こうして見ると一口に“音楽×マンガ”のクロス現象とはいえ、やはりロックバンドを扱う作品へ人気が集まっている印象もある。しかしその潮流の背後で、HIPHOPを扱うマンガもネクストブームとして徐々に耳目を集めつつあるのだ。 2020年から現在まで連載を続ける『少年イン・ザ・フッド』(扶桑社)や、今年連載開始となった『咲花ソルジャーズ』(講談社)など。様々な話題作の中でも、今回は今まさにカルチャーの枠を越えたブレイク寸前の『ワンダンス』(講談社)、『スーパースターを唄って。』(小学館)の二作をピックアップ。上記トレンド作と同様に実在のアーティスト/楽曲の要素が作中に満載な点も、大勢から支持を集める要因のひとつなのだろう。 通常HIPHOPを題材とするマンガは、主要人物としてMCやラッパーにスポットが当たることが多い。だが『ワンダンス』は、HIPHOPを中心にファンクやR&B、EDMとも縁深い、“ダンサー”の物語を描く作品だ。 主人公・カボこと小谷花木は吃音症の高校1年生。入学した高校で縁あって仲良くなった同級生・湾田光莉の誘いを受け、彼は半ば流されるような形でダンス部へ入部する事となる。当初はまったくの素人だったカボだが、吃音症を由来とする周囲の気配を読む力がやがて“音を聞く力”となりダンスの適性として開花。光莉や部活の面々と接するうちに、踊ることにどんどん魅了されていく――といったあらすじである。 連載開始から5年を経て、TVアニメ化も決定した本作。作者である珈琲がダンス経験者ということもあり、作中では多彩なジャンルの曲がダンスシーンに頻出する。 HIPHOPの一例としては、ダンス部のショーケース映像に登場したドレイク「Fake Love」、先輩・厳島伊折とのダンスバトルで描写される2Pac「Changes (feat. Talent)」、ケンドリック・ラマー「HUMBLE.」。そして、1年生の初コンテストでは、審査員のジャッジムーブにOddisee「Own Appeal」が、そして対戦相手となる強豪校のパフォーマンスにはProf「Andre The Giant」が用いられる。 その他にも、物語には随所でワールドワイドに長く愛され続けるアーティストや音楽が多数登場する。カボ自身は同じく吃音症であったスキャットマン・ジョンの存在に気持ちを後押しされ、湾田はパフォーマーとしてマイケル・ジャクソンを敬愛。二人の先輩となる部長・宮尾恩は、小学生の頃にNe-Yo「Because Of You」のMVに感銘を受けダンスの道を志している。 このマンガの最たる魅力は、やはり描き手自身の経験に由来する大迫力のダンスシーンだ。まるで彼らが本当に目の前で踊っているような、その一挙手一投足が巻き起こす微風をも肌で感じるようなダイナミックな描写。重ねて一見煌びやかなダンスの世界だが、そこに身を投じるカボをはじめ、様々なコンプレックスや鬱屈を抱えた人が多いことも本作は教えてくれる。 彼らの物語が映像化に際し、決められたコマ割りでしか動けない誌面を飛び出して、どのように躍動するのか。アニメ化の続報にも大きな期待を寄せたい作品だ。