つば九郎、ドアラはデビュー30年:個性豊かなプロ野球のマスコットたち
地域密着もマスコットたちの重要な役割
各球団のマスコットたちは、観客を盛り上げ、選手を応援するだけでなく、野球を通じて地域を結束させ、地元の魅力を発信するミッションも担う。 その一例が日本ハムのマスコット「B・B」だ。2006年から15年までの10年で北海道の全212市町村(当時)を訪問。各地の観光名所、名産品やご当地グルメを紹介しながら、地域の人々との交流を図るという一大プロジェクトを成功させた。現在はメインマスコットの座をフレップ(バナー写真の後列右から3番目)に譲ったが、球場外で地域貢献活動を続けている。道内市町村数と同じ背番号「212」を背負った「B・B」は、04年に球団が北海道に移転したときから、当時の本拠地球場があった札幌市だけではなく、道内全域に根差したチームになることを見据えていたのである。 広島のスラィリー(同写真の後列右から4番目)も、デビュー20周年の2015年に出版したフォトブック『スラィリー、じゃけん。』(KADOKAWA)で宮島、尾道、三段峡、大久野島など、広島県内のさまざまな土地を訪れ、風光明媚(めいび)な景色とともに地元の魅力をPRした。 一方で純粋にアイドル的存在として人気なのがオリックスのバファローベルだ。メインキャラクターであるバファローブル(同写真の前列右から2番目)の妹として誕生するや、そのルックスから「かわいすぎるマスコット」と話題をさらった。2011年には本拠地ほっともっとフィールド神戸でグラビア撮影に臨み、公式フォトブック『ベルがいっぱい』(PHP研究所)を発表。ちなみに、ベルの由来は「勝利の鐘=ベル」と、フランス語で美しい、かわいいを意味する「Belle」をかけたものだ。
米球界の名物マスコットにも影響与える?
現在、日本全国に数多く存在するマスコットの中には、熊本県のくまモンのように言葉をやり取りするキャラクターも少なくないが、その先駆けになったのはつば九郎、ドアラなど、筆談するプロ野球マスコットではないかと思われる。 大リーグ・フィリーズの名物マスコットであるフィリー・ファナティックは、2023年8月のエンゼルス戦で大谷翔平に対し、スケッチブックに大谷の絵と名前を描いたのを見せて交流を図った。そのファナティックは18年に神宮球場を訪問し、つば九郎とドアラに出会っている。はたしてフリップ芸を得意とする両者は、米球界を代表するキャラクターにまで影響を及ぼしたのだろうか。 もしこの疑問の答えが「Yes」であるならば、日本のプロ野球マスコットは誕生から約50年を経て、「本家」のマスコットにインパクトを与えるほどの独自性を確立したということなのだろう。
【Profile】
長谷川 晶一 ノンフィクションライター。1970年、東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経て2003年に独立。主にスポーツ関係のノンフィクション作品を多数執筆。幼い頃から中野ブロードウェイに憧れ、現在、同ビルの居住フロアで暮らす。著書に『プロ野球12球団ファンクラブ全部に20年間入会してみた!』(集英社、2024年)、『プロ野球アウトロー列伝 異端の男たち』(大洋図書、2024年)、『中野ブロードウェイ物語』(亜紀書房、2022年)など。2022~23年には「webスポルティーバ」の連載「つば九郎の人生相談」の話し相手も務めた。