つば九郎、ドアラはデビュー30年:個性豊かなプロ野球のマスコットたち
良い意味で野放図、自由奔放
日本のプロ野球初のマスコットがどの球団のキャラクターであるかは明確になっていないが、等身大のマスコットが球場に現れ始めたのは1970年代とみられている。プロ野球意匠学研究家であるコラムニストの綱島理友氏が監修した『スポーツ・マスコット図鑑』(PHP研究所、2009年)によれば、米大リーグでは60年代にマスコット文化が誕生したのだという。米国の影響を受けて後発で始まったものの、やがて日本のプロ野球マスコットは「野球」を離れ、独り歩きするようになる。つまり、野球ファン以外にも幅広く認知され、野球に興味のない人でもグッズを買ったり、ブログにアクセスしたりするようになるなど、「野球」以外で存在感を高めていくという独自のキャラクター文化を生み出していったのだ。 ひと口にスポーツ・マスコットと言っても、90年の歴史を誇るNPBと、1993年に誕生したプロサッカー・Jリーグとでは異なる面があるのではないだろうか。発足当初から明確なトータルコンセプトを掲げ、「リーグ一丸となってまい進していくJリーグ」に対し、「個々の球団がそれぞれの経営方針のもとに独自の道を歩んできたプロ野球」という歴史的経緯の違いを表すかのごとく、プロ野球には際立った個性を持つマスコットが多いように思われる。 西武のレオ(バナー写真の後列左端/手塚治虫『ジャングル大帝』の主人公をマスコットに採用)、ソフトバンクのハリーホーク(同写真の後列左から2番目)のように、精悍(せいかん)で勇ましい「王道キャラ」がいる一方、DeNAのDB.スターマン(同写真の前列右端)のように、愛嬌(あいきょう)やかわいらしさを売りにしている「脱力系キャラ」もいる。 あるいは、かつてロッテに存在した「謎の魚」のような「不思議キャラ」も忘れてはいけない。家族や子供がいるとか、趣味は犬の散歩であるとか、妙に細かい設定は明らかにされていたものの、チョウチンアンコウのような外見が時とともに変化して、最後まで何の魚なのかも分からないまま消えていった。 良い意味で野放図、自由奔放に展開しているからこそ、野球ファンか否かを問わず、また老若男女も問わずに愛されるプロ野球マスコットの文化が花開いたのだと言えよう。