リレー侍 作戦遂行も足りなかったもの 4年後ロスへ経験積むことが必要 【朝原宣治氏の視点】
「パリ五輪・陸上男子400mリレー・決勝」(9日、フランス競技場) 日本は1走坂井隆一郎(26)=大阪ガス=、2走サニブラウン・ハキーム(25)=東レ=、3走桐生祥秀(28)=日本生命=、4走上山紘輝(25)=住友電工=の布陣で挑み、37秒78の5位で2大会ぶりのメダルはならなかった。2008年北京五輪男子400mリレー銀メダリストの朝原宣治氏がレースを分析した。 ◇ ◇ ◇ 日本は作戦を遂行できたが、全体的に足りないものが結果に表れた。予選で出した38秒06から約0・3秒上げることができたし、バトンもつながり大きなミスはなかったが、メダルには及ばなかった。 予選からメンバーを変更したのは、2走サニブラウン選手のスピードを有効に使いたいという意図が見える。1走の坂井選手でスタートダッシュし、先行逃げ切りを図った。アンカーの上山選手にバトンが渡った時点ではトップだったが、さらにリードが必要だったということだ。 各国のメンバーを見ればアンカー勝負になると分かっていたので、上山選手が出遅れると勝負にならない。桐生選手から上山選手へのバトンパスは、バトンゾーンの後半で上山選手が一度、後ろを振り返っている。そのせいかうまく加速しきれなかった。上山選手がスピードに乗り切ったところでバトンを受けたいということで早めにスタートを切ったのだろうが、結果的にそこがうまくいかなかったようだ。 予選で2走だった柳田選手はメンバーを外れた。昨年のアジア選手権で10秒02を出すなど期待されての選出だっただけに、無念だろう。土江ディレクターも2走に固定しようとしていたが調子が上がらず、決勝直前にやむなく外したようだ。 リレーだけの出場はコンディション作りが難しい。私がリレーだけ出場したシドニー五輪の経験を振り返ってお話しさせていただくと、個人種目の100mとリレーの両方に出場する選手は大会序盤の個人種目に出場し、いったん体を動かしてからリレーの準備に入る。しかしリレーだけの選手は他のメンバーと一緒に選手村に入り、間を置いてリレーに照準を合わせないといけない。モチベーションや状態の維持に苦労した。 レースを見ていた人は、なぜ上山選手がアンカーなのか、東田選手や鵜沢選手がメンバーに入らなかったのはなぜかという疑問があるかもしれないが、バトンパスを考えるとこれまでレースで組んだことのない選手、経験のない選手を入れるのはリスクを伴うのだ。 桐生選手、山県選手、多田選手、小池選手と9秒台のタイムを持つ選手が複数いた東京五輪の状態から考えると、現在は少し落ちている。これを東京の時の状態にしていかないと4年後のロサンゼルスも厳しい戦いになる。近年、個人の強化は進んでいるが、チームとしてリレーの経験を積む機会は減っている。ダイヤモンドリーグなどでリレーを走る機会を増やしていかないと、誰かがケガしたり調子が上がらなくなった時にメンバー構成が難しくなる。個人種目とリレー、どちらを強化するかというのは難しい選択だが、今後の課題といえるだろう。(2008年北京五輪男子400mリレー銀メダリスト、「NOBY T&F CLUB」主宰)