天然育ちの職人肌 28歳の新ブランド「ユース オブ ザ ウォーター」は“未完成”の美学
祖父のもとで磨かれた美学
上田デザイナーは1995年生まれ、東京出身の28歳。幼い頃から祖父の江戸甲冑師、加藤鞘美のもとで職人の手仕事を間近に見ながら育った。モノづくりに対する興味関心がファッションデザイナーという目標に変わり、アメリカ・ニューヨークの名門パーソンズ美術大学や文化服装学院で、ファッションデザインを学んだ。アメリカ滞在時には、メンズウエアの原点を学ぶためにと古着の仕入れも経験している。コム デ ギャルソンに就職して「ジュンヤ ワタナベ マン」のパタンナーを務めるうちに、「ファッションデザインを通じて、あらゆる人が対等に関わるモノづくりがしたい」という構想が徐々に固まっていった。
“あらゆる人”というのはデザイナーと着用者だけでなく、工場の職人らも含んでいる。世間的には未完成といわれる生地を使い、指示していないはずの職人のアドリブを生かすのも理由がある。「完成しきってない服にこそ、思想や優しさが宿る。デザイナーのエゴを押し付けず、職人のアイデアも生かしながら、あえて隙のある服を作り、手に取った人がコーディネートを考えて完成する――そんな“対等”のファッションデザインがしたかった」と上田デザイナー。ブランド名のインスピレーション源となった「茶経」も、茶と対等に関わる考え方を説いた著書である。やや難解なコンセプトや思想かと思いきや、その原点には「分かりにくいっすよね」と笑う28歳のモノづくりへのピュアな愛情があり、逆にシンプルに見える服には、奥深いストーリーと味わい深いクラフツマンシップが込められていた。