社説:暮らしと経済 賃金と消費の好循環なるか
年賀の気分も冷めかねない。暮らしを直撃する物価高の波が続く。 年初からパン製品の一斉値上げをはじめ、缶ビールやチューハイの酒類、冷凍食品、もち製品など4月までの値上げ品目数は6100品を超える。通年で昨年を上回る見通しという。 原材料高に加え、物流費や人件費の増加分の上乗せが、押し上げ要因となっている。政府は景気判断で、「緩やかに回復している」との見方を続けるが、どれほどの人が実感できているだろう。 大きな鍵を握るのが、物価上昇を賄える賃上げを行き渡らせられるかだ。昨春闘の大企業中心の高い賃上げ水準で、実質賃金は一時プラス転換したが、夏以降はマイナスが続く。 このため連合は今春闘の賃上げ目標方針で、24年に続き「5%以上」とし、格差縮小に向け中小企業の労働組合は「6%以上」と引き上げた。 円安で業績好調な輸出大企業に対し、原材料高から賃上げ体力の乏しい中小企業との差は大きい。コスト上昇分の価格転嫁が確実に進むよう、実効性ある下請法改正と監督を進めたい。 石破茂首相は「賃金が上昇し、消費と投資が拡大する成長型経済」を目標とする。最低賃金を20年代に全国平均1500円に引き上げることを掲げるが、思い切った後押しが欠かせない。 一方、各分野では人手不足が深刻さを増す。 「働き方改革」による昨春の時間外労働の規制強化では、運送業界の運転手不足が顕著化した。バス路線は廃止や縮小など、「地域の足」が揺らいでいる。共同輸送や省力化、効率化など対策に手を尽くしたい。 年金制度改革では、給付水準の底上げなど懸案を先送りしている。団塊の世代が後期高齢者となる「2025年問題」もあり、社会保障費が膨らむ中、持続可能な制度となるのか。現役世代の将来不安は、消費控えにもつながっている。国民的な議論を政治が主導してほしい。 昨年は、日銀のマイナス金利解除で「金利ある世界」が戻り、追加利上げも予想される。家計にとっては、住宅ローンの金利上昇が懸念される。 豊かさの目安となる23年の名目国内総生産(GDP)で、日本は韓国などに抜かれ、経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国中、22位と過去最低だった。「成長」を口実とした場当たりな経済対策の結果として、政府は重く受け止めるべきだろう。 米大統領に返り咲くトランプ氏は、「米国第一主義」を掲げ、同盟国を含め関税引き上げを公言する。1期目と同じく米中摩擦の激化が懸念される。経済情勢に不透明感が漂う中、日本への影響を最小限とする重層的な戦略が問われる。