AIの嘘に対抗できるのはAIだけ 「ネットのクソ化」と戦う世界のファクトチェッカーの秘策は
AIで全ては解決できない 鍵は人によるAI活用
画像や動画や音声の加工や捏造を検証する際に、AIは大きな力を発揮する。 オリジナルの画像や動画を見つけてくるのは、その典型だ。また、動画や音声を自動で文字起こししたり、映像の中にある字幕なども抽出して比較したりする新ツールも出てきた。 英語の動画にでたらめの日本語字幕をつける偽情報の手法は非常に多い(例:ビル・ゲイツが予防接種は間違いと認めた?)。この技術によって動画の検証にかかる時間は劇的に短くなる。 また、複数のAIツールを活用して、ファクトチェックの記事から半自動的に多言語の動画コンテンツを作る手法も紹介された。 ファクトチェックへの技術の活用には3つの層がある。「検知・検証・配信」だ。どこに怪しい情報があるかを自動的に探す「検知」や、完成した検証コンテンツをそれを必要とする人たちに効率よく届ける「配信」は、今後ますますAI活用が進むであろう分野だ。 「AIは人間の監督と専門知識が必要だ」という見解が多くの登壇者から示された
一方で、そもそも拡散している偽・誤情報の何が問題なのかという検証対象の設定や、因果関係・相関関係の確認、背景情報も含めて総合的に検証結果を導いていくような作業は、人間の知識と経験が不可欠だ。「生成AIは言葉を生成するが、知識を生成するわけではない」ということを理解し、AIが得意なことをAIに任せるという判断が必要だ。
「ファクトチェックは検閲ではない」
総会に先駆けて、IFCNは「表現の自由とファクトチェックに関するサラエボ宣言」を公表した。世界的にファクトチェックは「オンライン検閲者であるとして執拗に攻撃され、多くは、誹謗中傷、個人情報の暴露、組織的な攻撃、法的な脅迫、政治的な圧力、さらには身体的な暴力」に晒されているという背景がある。 「検閲は情報を削除するが、ファクトチェックは追加する」と宣言では両者の違いを明快に説明している。また、「実際の害を引き起こす場合、一部の情報は削除されることがありえる」と指摘した上で「誤った主張が単に誤っているというだけで削除されるべきではありません。代わりに、公衆が主張の真偽を判断するための適切な文脈と検証を提供するべきです」と偽・誤情報対策として、削除よりもファクトチェック情報の提供の方が重要であるということを改めて強調した。 情報の真偽を検証するという意味でのファクトチェックは、ジャーナリズムの世界で古くから実践されている。 それがネット上で大量に拡散する偽・誤情報への対策の一つとして認識され、ルールや手法が段階的に確立され、発展してきたのは、フェイクニュース問題が世界的な注目を集めた2016年のアメリカ大統領選以降だ。 2015年に設立されたIFCNは認証団体が2016年9月で35、2024年にはJFCを含む177(再審査中含む、7月1日現在)にまで増えた。政治家の発言など政治的なトピックを専門とする団体もあれば、科学的な検証に特化した団体、エンタメ系の話題が多い団体など多様だ。 しかし、情報の検証をする以上、「誤り」と判定された情報を信じる人たちからは当然のように批判される。これは万国共通だ。 JFCが官房長官(当時)の発言を「不正確」と判定すれば「反自民」、福島第一原発からの処理水の海洋放出について国や国際原子力機関(IAEA)の報告書などをもとに解説すれば「国の代弁者」などと批判をされる。東京都知事選では小池百合子氏に関しても、蓮舫氏に関しても、偽・誤情報の検証記事を出しているが、片方に不利な情報を「誤り」などと検証すると「肩入れしている」と批判される。 サラエボ宣言はそのような状況を憂慮して出されたものだ。フィリピンのドゥテルテ前政権とその支持者からの圧力を受け、最大で合計103年の禁錮刑を求刑されていたレッサ氏も「あなたの苦しみは、あなた一人のものではない。一緒に力を合わせれば、よりよく戦えるはずです」と参加者たちを鼓舞した。