「頑張れ、頑張れ」って言う世の中がしんどい――元引きこもり・「あの」が考える「多様性」と絶望の越え方
日本は全然「多様性」がない
あのにとって、自他へのもどかしさを消すことのできる表現方法が音楽だ。 「伝えたいことはあるけど、普段のコミュニケーションではまったく出せない。だから歌にする。音楽をやるのは、言葉が乏しいというか、コミュニケーション能力がないところも絶対影響してると思います」 ミュージシャンとしては、バンド・I's(アイズ)のボーカリスト/ギタリストとしての「あの」と、ソロシンガー「ano」というふたつの顔がある。
「バンドは4人でやってるから、ぼくが100%を出しても誰かが不調だったら、バンドとしては100%じゃない。けど、その不完全さも出せるのがバンド。anoのほうは、自分がしたいことを、いろんなレジェンドの方とかと一緒に、世界観を広めていくっていう仕事ができたりとか。自分で自分を遊ぶ感じはあります」 anoとしての最新シングルである「ちゅ、多様性。」は、YouTubeで再生数560万回を突破。「バズっている」状態だ。その作曲は真部脩一で、彼がかつて相対性理論というバンドで作った楽曲も、TikTokでミームのように広がり続けている。
「ここまでいろんな人に届けるようなポップな曲は、今までなかったから、『いや、どうなのかな?』みたいな感じはありつつ。けど、『自分ができることってこういうことだな、もう振り切ろう』みたいな感じでした」 「ちゅ、多様性。」は、アニメ『チェンソーマン』第7話のエンディングテーマ。その回の内容を踏襲して、「ゲロチュー」と歌うなど、実にあのらしいインパクトがある。 「MVの世界観で言うと、やっぱりチューして終わるとか嫌だったんです。だからぼくは『ゲロを吐きたい』って言って吐いて。かわいいだけだと、どうしてもちょっとぼくは許せない感じがあるというか、やっぱ違和感とか毒がないと嫌です」
「でも、なんかちっちゃいなって思う、今やってることはまだまだ。『あの』っていうものが概念として、みんなの中に入って、毒が回って死んでもらいたいというか、死んでもらいたいんじゃないけど。ぼくすらも当たり前になれば、もっと生きやすい世の中になるのにな、って。ぼくを受け入れない人がたくさんいるのが現実だから、多様性って言ってるけど、日本は全然『多様性』じゃないじゃんと思うし。もっとぼくが有名になれば、誰かに『明日を生きよう』って思わせるような存在になって、世の中も変わっていくんじゃないかなって、少しだけそこには希望があるって感じ。今は絶望しかないけど」 その絶望を打ち消すための方法はすでに決めている。 「ぼくの考えてること、ほんとに10分の1も伝わってないんじゃないかなとか思います。でも、それは言葉とかで伝えていくっていうよりは、やっぱ行動とかエンタメで伝えていくのが楽しいと思います」
あの 2020年9月より「ano」名義でのソロ音楽活動を開始。2022年4月、 TOY’S FACTORYよりメジャーデビュー。同年11月オンエアのテレビアニメ『チェンソーマン』エンディングテーマに「ちゅ、多様性。」が採用される。自身を中心に組んだバンド「I's」でも活動中。タレント、女優、モデルとしても活動。 (取材・文:宗像明将)