“ガルウィング”に魔改造された「メルセデス・ベンツの高級クーペ」がオークションに! 1980年代の「過激なカスタマイズ」が人気上昇中です
ラグジュアリークーペを“ガルウイング”で差別化
メルセデス・ベンツ「500SEC」をガルウィングドア仕様にしたカスタムカーが、RMサザビーズが開催するオークションに出品され、話題を集めています。 【画像】「えっ…!」ガルウィングが目を惹くワルっぽいクーペ! これが「500SGS ガルウィング」です(17枚)
富裕層はいつの時代も、何事においても、差別化を追い求めるもの。特にクルマの世界では、振り返ってみれば1980年代が特に過激だったように感じます。 当時、西ドイツが誇る高級車ブランド、メルセデス・ベンツのフルサイズセダンであった「Sクラス」がベースの大型2ドアクーペ「SEC」クラス(近年は「Sクラスクーペ」と呼ばれていましたが絶版になってしまいました)では、到底満足できない富裕層がいたのでしょう。 そんな顧客のリクエストに応えたのか、自身で思いついたことを実行したのかは定かではありませんが、ドイツのエンジニアでカスタムビルダー/チューナーのクリス・ハーン率いるスタイリング・ガレージ(SGS)は、「SEC」クラスにガルウィングドアを装着するというコンセプトに初めて挑戦した企業でした。 1982年、スタイリング・ガレージはメルセデス・ベンツ「SEC」クラスをベースとするガルウィングドア仕様の「500SGS ガルウィング」を発表。大きな話題となりました。 ベースモデルはW126型「Sクラス」セダンのクーペ仕様であるC126型で、5リッターV8エンジンを搭載する「500SEC」。ガルウィングドアのヒンジはルーフに備わっており、ドア自体は真上に開きます。 ガルウィング化だけでなく、前後バンパーやサイドなどにエアロパーツを装着するなど、エクステリアも変更。さらにインテリアも、ステアリングやシフトセレクター、メーター回りなどがカスタムされています。 メルセデス・ベンツは、1950年代に「300SL」にガルウィングドアを採用して以来、「SLS」を投入するまでガルウィングドアを“封印”してきましたが、その分、チューナー/カロッツェリアには活躍のすき間があった、とも考えられます。 スタリング・ガレージによるガルウィングドアの投入は、多くのチューナー/カロッツェリアがインスパイアしただけでなく、「500SGS ガルウィング」を購入し、さらに独自色を追加しようとしたチューナー/カロッツェリアも存在したほどです。実際、ゲンバラ、トラスコ・ブレーメン、フランコ・スバッロなどが購入したといいます。 結果、「500SGS ガルウィング」は57台が制作されたといわれていますが、実際、何台が現存しているのかは不明です。 ちなみに、フランコ・スバッロは1986年のジュネーブモーターショーに「Sクラス」の4ドア・ガルウィング仕様を制作していますが、その顧客はブルネイ国王だったそうです。 話を「500SGS ガルウィング」に戻しましょう。 スタイリング・ガレージはメルセデス・ベンツ「500SEC」をガルウィング化するために、ボディ各所に補強を施したそうです。 この工程だけで実にメルセデス・ベンツ「500SEC」の新車時価格(当時のドイツでは8万3000マルク)ほどの予算を費やし、その他オプションは別途、という価格設定だったとか。 もっとも「500SGS ガルウィング」を購入した人たちには“予算の限度”はなかったのだろうと容易に推測できます。 ●1980年代の過激なチューニングカーが人気!? 当該車両が完成したのは、1984年5月のことでした。しばらくドイツにとどまった後、アメリカに渡り、カリフォルニア州オークランド在住のフェラーリコレクターによって所有されていたことが分かっています。 2010年3月には、出品者がドイツに“逆輸入”し、以降、これまでひととおりのメンテナンス(ガルウィングの油圧含む)が施されてきた履歴が残っています。 昨今、ベース車であるメルセデス・ベンツ「500SEC」や「560SEC」の中古車相場は上昇していますが、1980年代の過激なチューニングカーへのニーズも高まっているようです。 実際、RMサザビーズのオークションに出品された当該車両の予想落札価格は、なんと35万~40万ユーロと見積もられています。日本円に換算して約5645万円~6451万円ですよ! 「500SGS ガルウィング」は誕生から40年の月日を経て、今度はノスタルジックな差別化を求める富裕層によって愛でられているのでしょう。
古賀貴司(自動車王国)