復活手応えの準優勝 錦織圭はなぜファイナルセットに強いのか? 国枝慎吾の仮説は「パターンが読めないから怖い」
【錦織のコーチがサーブの変化を説明】 もともと錦織は「足を引き寄せるフォーム」で打っていたが、昨年ケガから復帰した際は、両足を肩幅ほどに開いたまま打っていた。 昨年5月の全仏オープン時、この変更の理由をコーチのトーマス・ヨハンソンに尋ねたことがある。その時の返答は、「最終的には足を引き寄せるようにしたい。ただその前に、圭のフィジカルを万全に戻す必要がある」だった。当時の錦織は、ひざや肩に負担を抱えていた時分。威力は犠牲にしても、安定感と身体への負荷軽減を優先した。 その錦織が、昨年12月のIMGアカデミーでの練習時点では足を引き寄せて打っていた。それはついに、フィジカル面の準備が整ったというゴーサイン。そのサーブ練習をヨハンソンコーチは眼光鋭く見つめ、要所要所で助言を与える。 そして、そんなふたりの姿をやや遠めに見守っていたのが、理学療法士のロバート・オオハシ氏だ。2011年から錦織を見る同氏は、「もう13年も経つんだね。いろんなことがあった。本当に多くのアップダウンがあった」と、感慨深げに相好を崩す。 そのオオハシ氏に「コンディションはよさそうですね」と問うと、「状態はいい。それに何よりいいのは、今の圭は『アンダー・ザ・レーダー』だということ。プレッシャーなく戦えるからね」と彼は言った。 アンダー・ザ・レーダーとは、人々の標的にされにくいということ。虎視眈々と上位を狙う、チーム全体としての意気込みと自信が温かな声ににじんでいた。 最近の錦織が苦手な質問に、「成績面の目標」があるかもしれない。12月の時点で「グランドスラムでの目標」を問われた彼は、「具体的に言ったほうがいいですか?」と確認したうえで、こう続けた。 「全豪オープンがすぐにありますが、なかなかまだ、ベスト8とかに行くと言える自信が正直ない。その位置にまだいないというのが現状ですが、とりあえず、2週目を目標にはしたいなと思います」
【錦織が最も苦手とする質問】 錦織にとって苦手な質問があるのは、言葉ではなく、プレーで答えを示すべきとの覚悟があるからだろう。 思えば、おそらく彼が最も苦手な質問のひとつが、「ファンにどんなプレーを見せたいですか?」だ。それを問われるたび、「これ、いまだに正解がわからないんですが......」と前置きしたうえで、彼はよくこう答える。 「僕はプレーするだけなので、あとは見た人が、何かを感じてもらえればと思います」 対戦相手を慄(おのの)かせ、観る者を魅了する──。そんなスリルとともに、錦織圭が真夏のオーストラリアに帰ってくる。
内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki