25歳で事故死した天才画家「中園孔二」の風変わりな生活とは? “暴力と恐怖とポップ”を描いた生涯を辿る【新年おすすめ本BEST5】(レビュー)
一作ごとに新境地を開く村田喜代子の『新古事記』は珍しく第二次世界大戦下のアメリカ、ニューメキシコを舞台にしている。 主人公の女性は日本人の祖父を持つ。若い物理学者の婚約者に連れられてメサ(台形の岩山)の上に作られた秘密軍事基地へ。そこでは多くの物理学者が集められ、ひそかな研究がなされている。 徐々にそれが原爆の開発だと分かってくる。基地のなかでは家族が犬を飼い穏やかな日常を過している。 その平和な暮しのなかから原爆が姿を現わしてくる。日常と非日常の対比が怖い。
村岡俊也『穏やかなゴースト 画家・中園孔二を追って』は、二十五歳で事故死した画家の短い生涯を辿ったノンフィクション。 中園孔二は東京藝大在学中から「天才」といわれた逸材。生活は風変り。 夜の暗い森をさまよい歩いたり、危険なトンネルに入り込んだり。フランスに行った時は寝袋をかつぎ野宿をしながら旅した。 そんな暮しをしながら「暴力と恐怖とポップ」の絵を描き続け高い評価を得た。 多感で繊細な青春の惑いの書になっている。
台湾文学が相変らず元気だ。『鬼殺し』の奇想天外な想像力で日本の読者を驚嘆させた甘耀明の『真の人間になる』は、終戦前後の花蓮の町を舞台に、原住民族の少年の成長物語。 この少年は日本統治下に育っただけに日本文化に親しむ。野球、児童雑誌『少年倶楽部』、あるいは親しくなった特攻隊員。 日本が敗れたあとも日本への想いは変らない。そんな折り帰還する捕虜の米兵を乗せた米軍の輸送機が山中に墜落する。 少年は捜索隊に加わるが、親友が敗戦直前、米軍による花蓮への空襲で死んでいるので、その心は複雑。 現実にあった事件を描きながらどこか幻想小説の趣きがあるのが良さ。 昭和三十年代まで日本各地には狭い線路を走る軽便鉄道が健在だった。なかでも草津と軽井沢を結ぶ草軽(草津軽便の略)はカブトムシのような形の機関車で人気があった。