没入型エレベーターから、オーロラが見える 「単なる上下移動じゃない」
「狭くて圧迫感がある」「退屈」―。 エレベーターに乗り、そう感じたことがある人は少なくないだろう。こんなイメージを変えようと、昇降機大手のフジテック(滋賀県彦根市)が、昇降中に美しい映像と音楽を楽しめる新しいエレベーターを開発した。これまでかごの中で映像や音楽が流れる製品はあったが、同社がこだわったのは「没入感」だ。高精細LED(発光ダイオード)ビジョンと非接触の技術を用い、エレベーターをエンターテインメント空間に生まれ変わらせた。 【画像】見えるオーロラ 東海道新幹線米原駅に近い同社の研究開発施設に、新開発の「イマーシブ(没入型)・エレベーター」はある。扉が開くと、かごの中には夜の森を再現した映像空間が広がった。鳥のさえずりや葉のこすれる音が響き、壁面に浮かび上がった数字に手をかざすと動き出す。1~10階を往復する間、高層ビルやオーロラ、宇宙空間など情緒的な映像が次々に映し出された。 開発のきっかけは「かごの中が閉鎖的で怖い」といった利用者の声だった。担当した白澤正博UXイノベーション部長は「単なる上下移動だけではつまらない。開放的で楽しい空間にしたかった」と話す。 かごの中で映像を映し出すのが、壁と天井の全面に敷き詰めたLEDライトの高精細ビジョンだ。背面の扉にも鏡面加工を施して空間に広がりを持たせた。さらに壁面に人の動きを感知するセンサーも設置し、映像の中の光に触れるような人の動きに合わせた参加型の演出が可能になり、より深い没入感が得られるようにした。 東京の空間デザイン会社や音楽制作会社の協力も得て完成したイマーシブ・エレベーターは、今年の「デジタルサイネージ(電子看板)アワード」でXR(現実と仮想空間の融合)/エンターテインメント部門の優秀賞を受賞した。 ただ、残念ながら現時点で一般公開の予定はない。不動産開発など顧客企業向けの見学用にわずかにお披露目されるという。フジテックは「エレベーターの新たな使い方や楽しみ方のアイデアが広がるよう、提案型エレベーターとして活用したい」と説明する。近未来の体験ができるのは、もう少し先かもしれない。