深夜も鳴りやまない「ナースコール」…「医師の働き方改革」に押し潰される看護師たちの悲鳴
ナースコールのデータ活用と課題
ナースコールシステムでは、多くのデータが記録されていますが、それをどう活用するかも大きな課題でしょう。まず、どのようなデータが集まるのか。例としては、以下の情報がナースコールシステムで取得可能です。 ・誰がコールを発信したか(発信者) ・コールがあった日時 ・コールの種類(通常の呼び出しなのか、緊急の呼び出しなのか) ・誰がそのコールに対応したか ・対応内容や処置の詳細 これらのデータは漏れなく記録していくだけでなく、分析することで看護業務の改善に役立てることが可能です。たとえば、コールが頻発する時間帯や、特定の患者からの呼び出しが多い場合、看護体制の見直しや、ケア方法の改善が考えられます。しかし現状では、前述のとおりデータがただ蓄積されているだけで、十分な分析や活用が行われていないケースも少なくありません。 実際、ナースコールシステムには「なにが行われたか」という対応内容を記録する機能もありますが、これはスタッフがデータを手入力しなければなりません。この入力作業が現場では十分に行われず、せっかくのデータが活用されずに埋もれてしまうことも。 それぞれの病院でも蓄積されているデータがどれだけ分析され、業務改善に活かされているか確認し、まずできることから取り組んでみると、今後につながるきっかけが見つかるかもしれません。
看護体制の未来を見据えた技術との向き合い方
これからの看護体制について改めて考えてみましょう。まず確実に予測されるのは、少子高齢化が進むなかで医療現場の人手不足がますます深刻化することです。医療従事者の数は、今後も需要に追いつかない状況が続くと考えられます。 一方、デジタル化は急速に進展しています。伝票や書類の電子化に加え、電子処方箋や遠隔診療も一般化しつつあり、業務の効率化やヒューマンエラーの減少が期待されます。 しかし、ここで重要なのは、医療は人と人との関わりが本質であるという点です。どれだけデジタル技術が進化しても、患者が求めるのは看護師との直接のコミュニケーションや、安心感を与える人間らしいケアです。ナースコールシステムに実装されていく新機能はあくまで補助ツールに過ぎず、それらに「使われる」のではなく、医療従事者が無理なく活用できる形で取り入れることが重要です。 特に看護師は患者の療養環境において中心的な存在です。技術の進化を取り入れつつも、人間らしいケアを提供できる体制を整えることが、今後の医療における大きな課題となるでしょう。医師からの指示や業務の一部を看護助手や他職種にタスクシフトしながらも、看護師が患者と向き合う時間をいかに確保するかが問われています。そのために、デジタルを活用して業務の効率化を図り、看護師が本来のケアに集中できる環境を整えていくことが欠かせません。 ナースコールシステムの進化をめぐる考察について結論づけるとすれば、今後の医療現場においても、やはり技術革新とともに柔軟な業務体制の見直しを進めていくことが重要といえましょう。デジタル化の恩恵を存分に活かしながら、人と人との関わりを大切にする医療のあり方を維持し続けることこそが、持続可能な医療システムの構築につながると確信しています。 花田 英輔 国立大学法人佐賀大学 理工学部 教授(数理・情報部門)
花田 英輔