ホンダ&日産が経営統合で見据える「スマートカー競争」の行方 優勝劣敗を左右する「ソフトウェア開発力」、産業革命誘発の可能性も
日本経済全体の今後を左右する“経営統合”に向けた協議が進められている。日産自動車の内田誠社長とホンダの三部敏宏社長は12月23日、共同持ち株会社設立による経営統合に向けて検討する基本合意書を締結したと発表。日産が恐れたのは、2016年にシャープを統合したことでも知られる台湾の電気機器受託製造大手・鴻海による買収の動きだった。
同社でEV事業の最高戦略責任者を務める関潤氏は、2020年まで日産の“ナンバー3”をつとめた人物として知られていた――自動車業界に精通するジャーナリスト・井上久男氏がレポートする。【全3回の第3回。全文を読む】 2024年10月8日、筆者は台湾・台北市で開催された鴻海の技術展示会に参加し、関氏に共同インタビューする機会を得た。関氏は「鴻海にとって重要な市場は、ホーム市場の台湾と、日本、米国、インド。(EVの供給について)日本の2社とすでに契約に向けて動いている」と説明した。 EVはこれからAIと融合し、スマートな(賢い)無人運転のロボットカーとなるだろう。脱炭素問題を起点にEVが注目されてきたが、今やEVシフトの先は、スマートカー競争がある。 「反EV」のトランプ次期米国大統領と、EVで先頭を走るテスラCEOのイーロン・マスク氏が急接近して新政権入りするのではないかと言われている背景として「ロボットカーを普及させるには規制緩和も必要。それで政府への影響力を持ちたいマスク氏がトランプ氏に近づいたのではないか」と見る業界関係者もいるほどだ。 スマートカーでは、当然ながらソフトウェアの開発力が優勝劣敗を左右することになる。こうした車は、タイヤの上にスマートフォンが載っているようにも見て取れるからだ。スマホをつくることを最も得意とする鴻海がこれからの自動車産業に参入するのは当然の流れと言える。
そしてホンダと日産が組もうとしているのは、ソフトウェアの開発に莫大な投資が必要となるため、1社で負担していては回収できないとの思惑もあるからだ。三菱自動車を加えた3社連合が成立すれば、合計の研究開発投資額は1兆9650億円となり、トヨタの1兆3000億円を上回る。 クルマの「スマート化」は産業革命を誘発することになるかもしれない。1900年のニューヨークの道路は馬車で溢れていたが、1920年頃になると、それが自動車に取って代わられた。1908年にフォードが大量生産方式を編み出し、車を世に送り出したからだ。 馬車を作っていた会社のなかにはおそらく廃業したところもあるだろう。馬具メーカーだったエルメスはバッグや財布などに移り、事業を転換したことで今でも高級ブランドメーカーとして世界に君臨している。 歴史は繰り返すという。今道路を走り回っているハイブリッド車やガソリン車がいつの間にかロボットカーに置き換わっていてもおかしくはない。 ホンダと日産の経営統合交渉はそんな時代を見据えての動きなのかもしれない。 ■特集全文:ホンダ&日産が経営統合へ、巨大連合“誕生”の裏で起きていた内幕 水面下で蠢いた“台湾の巨大企業”と日産“元ナンバー3”の逆襲 【プロフィール】 井上久男(いのうえ・ひさお)/1964年生まれ。ジャーナリスト。大手電機メーカー勤務を経て、朝日新聞社に入社。経済部記者として自動車や電機産業を担当。2004年に独立、フリージャーナリストに。主な著書に『日産vs.ゴーン 支配と暗闘の20年』などがある。 ※週刊ポスト2025年1月17・24日号