【やさしく解説】斎藤兵庫県知事のSNS疑惑、何が問題?◆PR会社社長コラムに批判、刑事告発に発展
兵庫県議会から不信任を受け失職、出直し選挙で劇的な勝利を収めた斎藤元彦・兵庫県知事。大きく注目されたSNS戦略を巡り、疑惑が浮上した。きっかけはPR会社社長が投稿した1本のコラム。公職選挙法違反の疑いで刑事告発される事態に発展した。SNSが大きな影響を与えたとされる知事選の経緯を振り返り、インターネットと選挙の関係に詳しい明治大大学院の湯浅墾道教授に問題の論点や「SNS選挙」について話を聞いた。(時事ドットコム取材班) 【画像】斎藤氏側が公表したPR会社からの請求書 ◇劇的再選、背景にSNS戦略 今回の知事選の発端は、3月に明らかになった斎藤氏のパワハラやおねだり疑惑を告発する文書だった。斎藤氏は告発について「事実無根の内容が含まれる」と強く批判。公益通報として扱わずに、告発した男性幹部を内部調査し、停職3カ月の懲戒処分とした。一方、県議会は県の調査が不十分と判断し、地方自治法に基づく調査特別委員会(百条委員会)を設置。事実関係を調べていたが、7月にこの男性が亡くなった。9月に県議会は全会一致で知事不信任を決議し、斎藤氏は出直し選への出馬を表明した。 11月17日投開票の出直し選で、斎藤氏は前回を大きく上回る111万票余りを獲得し、知事に返り咲いた。勝因の一つとされるのが、SNSで広がった投稿だ。中には真偽不明の情報も入り乱れて、投票行動にも大きく影響したとみられる。 ◇PR会社投稿が物議 異例の展開で知事に復帰した斎藤氏だったが、このSNS戦略に疑惑が持ち上がった。当選から3日後の20日、兵庫県内のPR会社社長の女性が、投稿サイト「note」で選挙の「広報全般を任された」とするコラムを公表。斎藤氏の公式SNSの「監修者」として、運用戦略立案やコンテンツ企画などを手掛けたと実績をアピールし、自身が街頭演説を撮影する様子も添えていた。 総務省の公職選挙法ガイドラインは、ネットでの選挙運動で「業者が主体的・裁量的に企画作成している場合、報酬を支払うと買収となる恐れが高い」と解説。陣営や社長の行動は「公選法に違反しているのではないか」と批判の声が上がった。 斎藤氏は、報道陣の取材に対し、PR会社に約70万円の報酬を支払ったことを認めたが、あくまで「ポスターやチラシのデザイン制作費用」だと述べた。SNS運用などについては社長がボランティアとして個人で行ったものだとして「公選法に違反していない」と反論。SNSの監修者で戦略立案したとするPR会社社長と説明に食い違いが生じた。 ◇専門家「原則ボランティア、違反は買収」 一連の問題を専門家はどう見ているのか。明治大大学院の湯浅墾道教授は、そもそも有権者に特定候補者への投票を呼び掛けるといった選挙運動は、公職選挙法で無報酬(ボランティア)が原則とされていると解説。違反すれば「買収」になり、刑事事件化することになる。 湯浅教授「無報酬を原則としている理由は非常に単純で、カネの掛からない選挙を実現するためです。一般の運動員の人件費を認めれば、選挙費用が膨大に積み上がってしまい、候補者間の金銭事情の差で有利不利が出てきてしまう。ウグイス嬢などの車上運動員や手話通訳者、事務員といった業務をする人への報酬は認められていますが、これは選挙運動というより単純な労務だからという理由です」 ◇PR業務、無償提供は「寄付」 今回の問題で注目されているのが斎藤氏陣営とPR会社との関係だ。他にも、最近は選挙プランナーやコンサルタントといった肩書きの人も増えてきた。 湯浅教授「もともと、こうした人や企業は選挙運動には直接関わらないけれど、政治活動として選挙に向けての世論形成活動や情勢分析をしてきました。ただ、選挙期間中にお金をもらって主体的に選挙運動に関わってしまうと買収に当たるので、そこは手を引かざるを得ない。他方で、本来は有償で行う業務を無料で提供すれば寄付になります」 政治資金規正法は、企業から政治家個人への寄付を禁じている。どのみちPR会社やプランナーが業務として選挙運動に当たるのは御法度。だから、一般的には選挙運動から距離を置き裏方の黒子に徹するのだ。 ◇デザインだけなら単純労務だが… それでは、今回のPR会社が有償で請け負った選挙ポスターやチラシのデザインといった業務は、選挙運動に当たらないのか。 湯浅教授「デザインであれば単純労務として従来の選挙でも許容されてきました。事実上、自分でポスターやチラシのデザインを決めている候補者はいないでしょうから。掲載される文面まで全部、業者に決めさせるとなると違法でしょう。一方で、候補者や陣営と業者が相談して決めていれば運用として容認されてきたということです」