映画『花嫁はどこへ?』インドの結婚事情が伝える普遍的なメッセージ
一年365日、映画&ドラマざんまいの今 祥枝が、おすすめの最新映画をピックアップ! 今回は、ひょんなことから取り違えられた2人の花嫁の思いがけない人生の行方を描いたヒューマンドラマ『花嫁はどこへ?』をレビュー。 【画像】今祥枝のおすすめ映画 ナビゲーター 今 祥枝 一年365日、映画&ドラマざんまいのライター、エディター。編集協力に『幻に終わった傑作映画たち』(竹書房)。
『花嫁はどこへ?』インドの結婚事情が伝える普遍的なメッセージ
2001年の北インドのとある村。昔からのしきたりに従って花嫁であるプールの家で結婚式が行われていた。その後、彼女は夫のディーパクに連れられて嫁ぎ先へと旅立つ。プールは赤いベールをかぶり、ディーパクはスーツを着て列車に乗り込むと、その日は大安吉日。列車には何組もの新婚カップルがおり、皆が同じような衣装で花嫁の顔が見えないことから、ディーパクは間違えて別の女性の手を引き、家に連れ帰ってしまう。 ディーパクについて来た花嫁は、列車の中で金持ち風を吹かせて、感じが悪かった男性の妻ジャヤのはず。彼女は夫から意図して逃れたかったようで、プールとは別人だと判明したあとも身元を偽る。一方、夫に頼り切りで世間知らずのプールは、ある駅に降り立ち、途方に暮れていた。かくして花嫁探しの騒動が幕を開ける。 日本では、ちょっと考えられないロマコメ風のシチュエーションには新鮮な驚きが。今から20数年前のインド、特に地方では、親や親族が決めたカースト制度の同じ階層に属する相手とのお見合い結婚が一般的だった。現在、都市部では結婚事情も大分変わったとはいえ、いまだに本作で描かれているようにお見合い結婚が多く、挙式に関しては花嫁側の負担が非常に大きいという。 映画では、プールは愛する夫の家で専業主婦になることに喜びを感じているようだが、嘘をついて夫から姿を隠しているジャヤは別の生き方への強い意志があるらしい。こうした女性たちの言動の背景には、インドの女性が長きにわたり置かれてきた難しい状況も見えてくる。もちろん、本作はお見合い結婚の良し悪しや、専業主婦か自立した女性かの是非を問うものではない。伝統の中にも幸せがあることは確かなのだから。しかし、受け身で生きることに疑問を持たなかったプールが社会に出て得た知見と、事情があって結婚はしたものの、自立して生きるチャンスをつかみ取ろうとするジャヤ。この二人の女性の対比と連帯が伝えるメッセージには普遍性がある。大切なのは人生に対して主体性を持つことなのだ。 監督・プロデューサー/キラン・ラオ 出演/ニターンシー・ゴーエル、プラティバー・ランター 配給/松竹 公開/10月4日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋ほか全国公開 ©Aamir Khan Films LLP 2024 ※BAILA2024年11月号掲載