出来高1兆円超え、卸電力取引所のenechainが「業界の巨人」から応援される理由
11月25日発売のForbes JAPAN2025年1月号の特集「日本の起業家ランキング2025」で4位に選出されたのは、enechainの野澤遼だ。 日本のエネルギー業界の期待を一手に背負うスタートアップがある。資源のない国の弱さを痛感したからこそ挑んだ、卸電力マーケットプレイスの誕生秘話。 今年4月、電力業界であるニュースが注目を集めた。enechainがシリーズBエクステンションラウンドと大手銀行からの借入で、総額60億円の資金調達を行ったのだ。 今どき数十億円規模の資金調達は珍しくない。注目されたのは第三者割当増資の顔ぶれだ。出資した17社のなかには、旧一電系のJERA、K4 Ventures(関西電力の投資子会社)、中国電力、中部電力ミライズ、北海道電力のほか、大手ガス会社や商社など業界の主要プレイヤーがずらり。創業社長の野澤遼はこう語る。 「創業して5年。当初はまったく見向きしてくれなかった巨人たちが、今や応援団になってくれた。日本のエネルギー市場全体が抱いている我々への期待の大きさを強く感じています」 なぜエネルギー各社がenechainに期待を寄せるのか。それは同社提供の卸電力マーケットプレイス「eSquare」で安定的・計画的な取引が可能になったからだ。 電力価格はボラティリティが高い。電力生産のもとになる資源の価格が地政学的要因などで大きく変動するからだ。電力事業者は価格変動に対応できないと経営が危うくなる。実際、21年4月時点で新電力会社は706社あったが、24年3月までに累計119社が撤退・倒産している。 ボラティリティの高い商品は、ヘッジをかけて安定的に取引することがビジネスのイロハである。しかし、卸電力取引市場JEPXは翌日の電気を売買するスポット市場が中心。あとは売り手と買い手が相対で中長期のヘッジ取引をするしかないが、相対取引は価格が公表されないため、プレイヤーは相場感をつかめない。野澤いわく「暗闇のなかで殴り合いしている状態」で、事業者は需給の実態から乖離した価格で売買するリスクを抱えていた。 「電力価格のボラティリティを抑えるには、透明性の高いヘッジ取引市場が必要です。『eSquare』は、為替予約のようなかたちで将来の取引をリアルタイム取引できる。取引が透明化されるだけでなく、相対取引でかかっていた取引先の探索コストや交渉コストも不要になります」 ヘッジ取引市場の重要性は業界の誰もが感じていた。過去には電力会社や商社がヘッジ取引市場創設に挑戦したこともある。しかし、電力会社は主に売りポジション、商社は傘下の小売事業者が主に買いのポジションを取る。市場の運営には第三者として中立的な立場を求められるため、うまくいかなかった。 「テック企業など異業種からの参入はありえたかもしれません。ただ、エネルギー業界は制度が複雑ですし、そもそも取引に課題があることも知られていない。私たちは業界をよく知っているので第三者のファーストムーバーになれた」