ドイツが「欧州の病人」に戻る…米ミサイル配備で「ロシアとの最前線」に“復帰”すれば、経済への悪影響は必至
商業用不動産市場も絶不調
ロシア制裁に起因するインフレを抑止するために実施された欧州中央銀行(ECB)の利上げもドイツの不動産部門に大打撃を与えている。 ドイツの不動産部門はGDPの2割を占め、自動車部門よりも規模が大きい。低金利と好況を背景にドイツでは近年、空前の住宅ブームに沸いていたが、それが崩壊に向かっており、大手不動産企業の破綻も起きている。 ドイツ政府によれば、昨年の住宅価格は約9%下落したが、適正水準よりも依然として15~20%以上高いと言われている。 商業用不動産市場も絶不調だ。昨年の価格の下落幅は過去最大となり、商業用不動産向け融資の焦げ付きがドイツの金融システム全体を揺るがす事態に発展する可能性は排除できなくなっている。 ドイツ政府は12月に不動産危機に対処するため官民合同会議を開催する意向を示している(8月2日付ロイター)が、後手に回っている感は否めない。
対ロシア防衛のコストも足かせに
ロシアとウクライナの戦争が長期化する中、ドイツを始め欧州とロシアとの間の安全保障環境が悪化していることも気がかりだ。 10月に退任する北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は、英BBCに対し「欧州はウクライナでの戦争が10年間は続くものと覚悟する必要がある」と語った。 このような危機意識を共有するドイツ政府は今年、NATOが求める「GDP2%」に相当する717億ユーロ(約12兆円)の防衛予算を計上した。かつての「旧東ドイツ復興」にかかったコストのように、「対ロシア防衛」がドイツ経済の重い足かせとなってしまうのではないかとの不安が頭をよぎる。
ウクライナ戦争で流れが反転
ドイツがロシアとの最前線に再び立たされるリスクも浮上している。 2026年から米国製長距離ミサイルをドイツに配備との決定を受けて、ロシアのプーチン大統領は7月28日、「冷戦時代の出来事を彷彿とさせる」と批判し、「ロシアは対抗措置として同様のミサイルを配備する可能性がある」と述べた。 冷戦時代の米国は、モスクワに届くとされた中距離核ミサイル「パーシング2」を西ドイツに配置した。ソ連が中距離弾道ミサイル「SS-20」を東ドイツに配備したことへの対抗だったが、結果として当時の東西ドイツは核戦争の危機にさらされる地域になってしまった。 その反省から、冷戦終結とドイツ再統一を経た後は、エネルギー協力を中心にロシアとの関係強化に努め、自国の領土が二度と核戦争の舞台にならないよう努めてきた。だが、ロシアのウクライナ侵攻以降はその流れが反転し、ドイツの地政学リスクはその後も高まる一方だ。 今回の決定に関するドイツ国内の評判も悪い。国民の49%が反対し、賛成の45%を上回った。与党や連立政権内からの不満が噴出している(8月4日付ZeroHedge)。 ドイツのショルツ首相は、未曾有の危機を乗り切ることができるのだろうか。
藤和彦 経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。 デイリー新潮編集部
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