名作映画『砂の器』公開50周年。 物語の舞台は、『VIVANT』のロケ地にもなった島根県奥出雲町
「亀嵩」(かめだけ)という地名を知る人はたいてい『砂の器』を知っている。『砂の器』とは松本清張氏の長編推理小説。本を読んだことがなくても映画なら観たという人は多いはず。松竹映画『砂の器』は1974年に公開され、今年でちょうど50年。その節目に島根県仁多郡奥出雲町亀嵩で「砂の器記念祭」が開かれた。
物語のなかで亀嵩は東北弁に似た音韻を持つ出雲地方の言葉「カメダ」とともに、事件の重要な鍵を握る場所として登場する。映画では丹波哲郎さん扮する今西刑事が木次(きすき)線を使って亀嵩に入り、棚田が広がる農道を行き来する姿が描かれている。つまり、小説の中でも映画の中でも、亀嵩は砂の器ファンにははずせない場所なのだ。
記念祭はこの地区の亀嵩小学校の体育館で行われた。50年という節目、当時の映画公開日と同日の土曜日、亀嵩という場所。イベントの舞台としては申し分ない設定である。奥出雲町の糸原町長によると亀嵩地区は人口が1000人を切り、亀嵩小学校は近く統廃合されるという。その会場に約600席が設けられ、当日は雨にも関わらず、町内外からの来場者でいっぱいになった。その賑わいにこのイベントは文字通り、地元の人たちにとって″お祭り“なのだと実感した。
イベントはゲストスピーチから始まった。登壇者は福澤克雄氏。福澤氏はTBSテレビドラマ版の『砂の器』を監督した人だが、その作品も放送からちょうど20年になるという。福澤監督に「風景が美しく、食べ物がおいしい。奥出雲には本物がある」と言わしめたこの町で、同氏が撮った作品は数あるが、なかでも日曜劇場の『VIVANT』は記憶に新しい。ちなみに『VIVANT』でも奥出雲は主人公の父が育った場所としてロケに使われ、放映後は観光客で賑わっている。
コンサートでは県内在住のアーティストたちにより、映画版の「宿命」、ドラマ版の「宿命」、「VIVANT」のメインテーマ等が演奏された。フルオーケストラの作品がシンフォニエッタに編曲され、ピアノと弦楽器の音色に会場はぐいぐいと物語の世界に引き込まれていく。トークショーには登壇者のひとりに、映画版に子役として出演した春田和秀氏が招かれた。巡礼とも言える父と子の放浪シーンに登場する少年期の本浦秀夫役を演じた人である。当時の春田氏は小学生。セリフがなく表情と動きだけで秀夫役を演じきった役者として撮影時のエピソードなどが語られた。