名作映画『砂の器』公開50周年。 物語の舞台は、『VIVANT』のロケ地にもなった島根県奥出雲町
そして最後は映画の上映。35ミリフィルムで上映される『砂の器』は、音声も映像も昭和の映画館を思い出させる。約2時間半の上映にも関わらず、多くの来場者が席を立たずに見届けたのも印象的だった。糸原町長に聞くところ、この上映は「しまね映画祭」の一環でもあるとのこと。島根県では映画館のない町でも大きなスクリーンで映画を楽しもうと、市町村の公共ホールで様々な作品が上映されるという。亀嵩小学校の『砂の器』も、しまね映画祭のラインナップの一作品として観客を楽しませた。
この日、せっかく奥出雲に来たのだからと亀嵩周辺の物語ゆかりの地をめぐってみた。木次線の亀嵩駅は撮影には使われなかったが、今も物語の舞台を見に多くの人が訪れるらしい。駅舎内のお蕎麦屋さんは週末もあってか、ランチタイムには行列ができていた。出雲八代駅と八川駅は撮影時には亀嵩駅に見立てられた。特に出雲八代駅のホームは今西刑事が佇むシーンや本浦父子が別れる時の切なくも感動的なシーンとして登場する。線路の景色が今も当時の面影を残すのは、ローカル線ならでは魅力かもしれない。
また、湯野神社は緒形拳さん扮する三木巡査が石段を駆け上がり、亀嵩にたどり着いた本浦父子を見つける場所として出てくる。鳥居の横には「砂の器舞台の地」と刻まれた記念碑が建っており、ファンの撮影スポットにもなっている。
参考までに、トークショーの登壇者のひとりで地元出身の村田英治氏が、JR木次線の歴史と砂の器のエピソードを本にして出版している。作品とこの町の背景などが詳細に語られており、砂の器の旅に最適な一冊として紹介したい。
このように「砂の器記念祭」は50周年という名にふさわしい、地域の色が濃く出たイベントだった。そこには時を経て何度もドラマ化されるほど普遍的なテーマを持つ作品の力もあるが、物語と映像の持つ力を信じて撮影に協力し、ていねいにロケに寄り添ってきた地元の人たちの力もある。それは前出の福澤監督を始め多くの映像制作者たちが、東京から決してアクセスが良いとは言えない島根県、さらには奥出雲に繰り返しロケに訪れていることからもよくわかる。