1990年代の珍技術3選
(2)ユーノス「コスモ」:3ローターエンジン
1990年にマツダが、ユーノスブランドとして発売した4代目「コスモ」は、画期的なモデルとして、いまも記憶に鮮明に刻まれている。大きな特徴といえば、迷いをふっきった流麗な大型クーペボディのデザインと、パワフルなエンジンだ。 とりわけ4代目コスモというと、多くのひとがすぐ口にするのが3ローターエンジン。マツダお得意の、通常のピストンでなくおにぎり型ローターを使う、コンパクトで高出力のロータリーエンジン搭載車だ。 ロータリーエンジンは、パワーがあっても燃費がよくない、という点で、マツダ自身が搭載に慎重だったが、金あまりの時代背景が、あえてロータリーエンジンの採用に踏み切らせたのだ。 しかも、コスモには新開発の3ローターで構成されるユニットを開発。それだけでなく、ターボチャージャーを2基組み合わせた。このターボは同時に作動するのでなく、シークエンシャル式。低回転域は小型のタービンが作動し、回転が上がると大型のタービンにバトンタッチするというもの。当時は凝った技術として注目に値するものだった。 「国産エンジン最強の性能とV121エンジンに匹敵する滑かさ」と、自動車専門誌に評価されるほどで、開発を指揮した技術陣の面目躍如たるものが感じられた。「ペルソナ」から引き継いだラップアラウンドタイプの内装も含めて、“高性能スペシャルティクーペ”というコンセプトが一気通貫。そこがいまも忘れられない理由だ。 ただ3ローターはやりすぎで、時代の流れと合わなかったという点で“珍”技術といえたかもしれない。 銀行の金融引き締め(総量規制)が1990年に実施されたあと1992年頃にむけて景気が冷えこんでいくとともに、コスモ20B(3ローターエンジン搭載モデル)の売れ行きも鈍化。当時で500万円前後という高価格もあって、(自動車好きには)惜しまれつつ、コスモは姿を消すことになった。
(3)三菱「ミラージュ」(4代目):1.6リッターV6エンジン
1991年10月に三菱自動車が発売した4代目ミラージュも、ある意味、歴史に残るクルマといえる。理由は、エンジン。1.6リッターのV6搭載モデルが用意されていた。 バブル景気を背景に、メカニズムの点でも特別感を出すべく開発されたエンジンで。世界最小のV6といわれた。小排気量の多気筒エンジンといえば、同年の6月にマツダがユーノス「プレッソ」に搭載した1.8リッターV6があった。なぜか小排気量化の戦いである。 V6エンジンのメリットとしては、直列に対して全長がコンパクトに出来ることがあげられる。いっぽうデメリットは部品点数が多くなり、かつ重量がかさむこと。 ミラージュの場合、走りをきわめた高性能パワーソースと謳われたが、このときエンジンが、可変バルブヘッド搭載やディーゼルターボなど、6種類も用意されていて、はたしてどのユニットが最重要視されているのか、わかりにくかった。バリエーションの多さが、まさに“当時”である。 ミラージュのV6はいわゆるショートストローク型だったので、よくまわるが、いっぽう、排気量が小さいため低回転域でのねばりがない。まぁ、そういうものである。4代目ミラージュはスタイリングがかなりおとなしくなっていて、内容と外観との乖離がはなはだしい。これは“珍”企画だった。
文・小川フミオ 編集・稲垣邦康(GQ)