「NON STYLE」石田明 一番強いネタを一本目にするか、二本目にとっておくべきか?さや香、笑い飯らから見る<ネタ選びの困難さ>。「サブスク全盛で<飽きる速度>が早くなった今…」
◆誰もが優勝は笑い飯やろうと思っていた さや香が「見せ算」をやるまでは、「2本目で失敗したコンビ」といえば笑い飯でした。 笑い飯は2009年のM-1で1本目に「鳥人(とりじん)」というネタを披露しました。 頭は鳥、首から下は人間の謎の生物「鳥人」を、交互に演じていくというネタだったんですが、笑い飯の2人にしかできない独特の世界観が爆笑を生み、(島田)紳助さんは史上初の100点をつけました。 誰もが優勝は笑い飯やろうと思っていましたが、彼らが2本目で選んだネタは「チンポジ」でした。まさかの下ネタに会場はさーっと引いてしまい、最終投票では1票も入りませんでした。 僕はこのとき、敗者復活を勝ち上がり、同じ決勝の舞台に立っていましたが、あまりにいさぎよく、かっこいい負け方に「笑い飯には一生追いつかれへんな」と思ったほどでした。
◆一番強いネタを1本目にするか、それともとっておくか このように、時に大きなドラマを生むネタ選びですが、いざ決勝に進出したときに、1本目と2本目でどのネタをやるのかは、正直かなり悩みます。爆笑を狙えるネタが2本もあればいいんですけど、1年に2本も、そのレベルにまで仕上げるのは難しい。 となると、一番強いネタを1本目にするか、それとも2本目にとっておくか。 まず最終決戦の3組に残らなくちゃいけないことを考えると、やっぱり、決勝の1本目に一番強いネタをやるのがセオリーでしょう。 そこで爆発できれば、2本目のクオリティが少し落ちても、1本目の勢いがゲタを履かせてくれます。 「決勝の2本目は跳ね切らないことが多い」とよく言われるのは、みな、優勝をかけた極限状態で、1本目に一番強いネタを持ってくるからなんです。
◆ますますチョイスが難しくなっている また、1本目と2本目とでスタイルを変えるかどうかも、大きなテーマです。 僕らのころは、同じスタイルで続ける「2階建て」が常とう手段でした。2008年のM-1でも、NON STYLEは「太ももを叩いて自分を戒める」というスタイルの2階建てにしました。 ただ、今は本当にいろいろな漫才のスタイルがあって、お客さんにも「次はどんな新しいことを見せてくれるのか」という期待があります。つまり、どんどん自分の「新しさ」を更新していく必要があるわけです。 しかも、辛抱強くテレビを見なくてもいいサブスク全盛時代の特徴として、お客さんの「飽きる速度」も早くなっている。そうなると、正直、2階建てが得策かどうかわかりません。 2023年の決勝でも、令和ロマンは2階建てではなかったけど、ヤーレンズは2階建てでした。一概にどちらがいいとはいえない。ますますチョイスが難しくなっているとしかいえません。 もし、2023年のM-1決勝にNON STYLEが出ていたら、どうしたでしょうね。1本目で最終3組に残ることができたら、2本目ではガラリとスタイルを変えるかもしれません。 でも僕は自分のボケの弱さをわかっているので、やっぱり2階建てにして畳み掛けるかな。あるいは今現在のネタの作り方で行くなら、2階建てなんてことすら考えずに、システムなんかない、ひたすらくだらないネタ2本で行くかもしれません。 ※本稿は、『答え合わせ』(マガジンハウス)の一部を再編集したものです。
石田明
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