生物学的に“不安”はあって当たり前 焦りと不安を軽くするお守り言葉とは?
焦りと不安を軽くするお守り言葉とは?
ただ困ったことに、今の社会には、「ちょっと一歩引いて冷静に考えること」を邪魔する雰囲気、「考えていては手遅れだ。すぐに行動しろ」と煽る雰囲気があって、これがまた「取り残されるかも」という不安を煽るのです。 以前、電車で向かいの座席に座っていた人のTシャツに 「Do it now,“later” is “never”」 という英語の文がプリントされているのを見かけました。 「今、やるんだ。『あとで』と言ってたら結局やらずじまいになる」 というような意味でしょう。ゆっくり冷静に考える余裕を奪う脅し文句です。だけど、よく考えると,“later” is “never”は別の解釈、ほとんど正反対の解釈も可能です。 「『あとで』と言ってるうちに、『しなくてもいい』ことになるかも」 こういう場面は、実は数え切れないほどあるのです。たとえば、買い物。いま、「これがほしい」と思っているけど懐具合を考えて「あとで」と思っているうちに1週間もたつと冷静になり、「別になくてもいい」ということになって結局買わずに済む。 あるいは、通信教育の宣伝に乗せられて何か資格を取るために勉強しようと思い立ったけど、いますぐ始められないからちょっと時間を置いているうちに、冷静さを取り戻して、そんな資格を取っても人生でさほど役に立つわけではないことに気づいて取りやめるとか。 「いますぐ」と焦る気持ちをなだめて、ちょっと間を置いて考えてみると、実はする必要がないんだと分かることは珍しくありません。逆に何か思い立ったら、それがほんとうに必要なことなのか冷静に考えもせず、すぐに着手するということを繰り返していると、長い人生を経て振り返ったとき、結局しなくてよかった無駄な努力の跡だけが残った、ということになるかもしれません。 新入生や新入社員は、「早く新しい環境に慣れよう」、「早く一人前と認められるようになろう」という意識があって(この意識そのものは決して悪いことではありません)、ついつい“Do it now”「いますぐ、やれ」という脅し文句に乗せられやすいかもしれません。そして、いますぐやれないと不安になってしまうかもしれません。でも、慌てなくていいのです。時間はたっぷりあります。昔は「人生50年」と言われていました。わたしの世代は「人生70年(あるいは80年)」と思っています。いまの若い世代は「人生100年」だそうです。 慌てる必要はないのです。ゆっくり冷静に考えて、「これだ」と思うものを見つけて取り組んでください。 「Do not it now,“later” may be “never”」 「いますぐでなくていい。『あとで』と言ってるうちに、『しなくてもいい』ことになるかも」 焦りと不安を軽くするお守り言葉です。 (心療内科医・松田ゆたか)