気候変動による保険損失が90兆円規模に増加、懸念される「破滅的な循環」
人為的な気候変動が今世紀における天候関連の保険請求の3分の1を占めており、コストは急速に膨らんでいるうえ、保険会社は気候リスクを過小評価している──このほど公表された新たな調査結果がこのような警鐘を鳴らしている。 複数の非営利団体で構成されるネットワーク「Insure Our Future(インシュア・アワ・フューチャー)」の報告書によれば、地球温暖化によって過去20年で約6000億ドル(約90兆9000億円)規模の損失が生じ、気候関連の保険損失が過去10年で全体の31%から38%に増加した。 同報告書は、世界規模で事業を展開する主要な損害保険会社28社を分析した結果、2002年から2022年にかけて「気候変動に起因するとみなせる損失」が4750億~7200億ドル(約72兆~109兆1700億円)に上ったとしている。2022年だけでも、天候関連損失1320億ドル(約20兆円)のうち520億ドル(約7兆9000億円)が気候変動の影響に帰せられるとした。 さらに、2023年に主要28社が試算した気候起因損失は106億ドル(約1兆6000億円)に達し、これは同年にこれらの企業が化石燃料(石炭・石油・天然ガスなど温室効果ガス排出源となる燃料)関連企業向けに引き受けた保険料総額113億ドル(約1兆7100億円)とほぼ同水準であることが指摘されている。 ニュージーランドのビクトリア大学ウェリントン校の研究者イラン・ノイは、この報告書について次のように述べている。 「気候変動の影響は現在および未来の問題であるだけでなく、今世紀を通じてすでにリスクを増大させ、大きな損失を引き起こしてきたのです。今回の研究成果を踏まえると、再保険会社(保険会社自身が加入する保険を提供する企業)は気候リスクに関する理解を改める必要があります」 今年初め、再保険大手のSwiss Re(スイス・リー)は、気候変動の影響で保険会社が一部地域から完全撤退せざるを得ない状況を示す報告書を発表している。その中でスイス・リーは、より大きな損失を回避するため、各国が温室効果ガス排出削減への支出拡大に踏み切るべきだと訴え、「これは価値ある支出である」と強調していた。しかし、インシュア・アワ・フューチャーの今回の報告書は、そのような理解でさえ危機の緊急性を過小評価している可能性を示唆している。 ノイは次のように述べている。 「Lloyd’s(ロイズ)やスイス・リーが示す保険金増加要因の捉え方は、因果関係に関する根本的な誤解を含んでおり、過去15年で進展した気候関連科学知見が反映されていません。金融規制当局は、保険業界や経済全体が気候危機によって圧迫される前に、独立した気候科学の知見を導入し、気候危機の真のコストとリスクを把握するべきです」 報告書の著者らは、リスクを低減し問題の一部ではなく解決策の一部となるために、保険会社の具体的な行動を求めている。 元カリフォルニア州保険監督官のデイブ・ジョーンズと、保険数理の専門家であるルイーズ・プライアーは序文でこう述べている。 「保険業界は歴史的に、社会をより強靭にする手助けをしてきました。今こそその力を認識し、クリーンエネルギーへの移行を加速させ、新たな化石燃料プロジェクトへの引受を停止し、地球温暖化を1.5度(産業革命以前比)以内に抑えるための信頼できる移行シナリオに速やかに適合させる必要があります」