「私からすると信じられない」難しいバンクを攻略した阿部将大に帝王・山田裕仁氏が驚き/高知競輪G3・決勝レース解説
最終3コーナーから5番手の深谷選手が仕掛け、そのスピードに乗って坂井選手も追撃しますが、絶好の展開となった清水選手は余力十分。犬伏選手の脚色が鈍り始めたのみて、清水選手は最終2センターで外に出して、差しにいく態勢に入ります。その直後に阿部選手で、大坪選手は空いている内を突くカタチで最終4コーナーを回って、最後の直線へ。中団から捲った深谷選手も、イエローライン付近を伸びてきます。 最後の直線に入ったところで、清水選手は犬伏選手を捉えて先頭に。しかし、その外から襲いかかった阿部選手がグイグイ伸びて、清水選手に並びかけます。犬伏選手は力尽きて失速し、内からは大坪選手、外からは深谷選手と坂井選手が前を追いすがりますが、先頭を争う2車までは届きそうにない。ジリジリと差を詰める阿部選手が清水選手の外に並び、ゴール直前のハンドル投げ勝負となりました。
競馬は「コース適性」が、競輪には「バンク適性」がある
最後の最後、ほんの少しだけ前に出ていたのは、外の阿部選手のほう。絶好の展開をモノにした清水選手を捉えきるというジャイアントキリングで、通算二度目のGIII勝利を決めてみせました。僅差の2着が清水選手で、3車が横に広がっての3着争いを制したのは、最後の伸びが際立っていた坂井選手。北日本勢はまったく存在感を発揮できず、新山選手は後方のまま7着という結果に終わっています。 注目の主導権争いは前受けから突っ張った犬伏選手の勝利で、自分が得意とする戦法をやられて大敗を喫した新山選手は、さぞかし悔しかったことでしょう。新山選手の敗れ方がいささか淡白なものに感じた方が多かったと思いますが、突っ張られて引いたときにはおそらく、「高知の500mバンクであればまだ仕掛けるチャンスが巡ってくる」と考えていたのだと思いますよ。 しかし、最終ホームで犬伏選手が全開モードにシフトしてからは、力尽くでねじ伏せるしかない状況に。そして、それをやるにはポジションが悪すぎたし、それができるデキにもなかったということでしょう。こういった「仕掛けどころを迷わせる難しさ」が、高知バンクにはある。自力選手はもちろん、マーク選手にとってもタイミングを狂わされるような面がある、なかなか手強い競輪場なのです。 そんな高知バンクで、まさに水を得た魚のような強さを見せた阿部選手。調子のよさもあったのでしょうが、いわば「バンク適性」の高さが何よりも大きかったという印象を受けました。阿部選手は、準決勝でも初手から動いてポジションを取り結果を出していたのですが、この決勝戦でも主導権を奪った中四国勢の直後につけるという好判断をみせています。本当に、何もかもうまくいっているんですよね。 二度のGIII優勝がいずれも高知という相性のよさで、シリーズのなかでは「踏めば踏むだけ前に進む」といったコメントもしていた阿部選手。こんな難しいバンクが得意というのは、苦手意識のある私からすると信じられない話ですよ(笑)。しかし、文句なしの展開となった清水選手をねじ伏せたのですから、これはもう認めざるをえない。高知での阿部選手は別モノだと、しっかり覚えておいたほうがいいですね。 このように、競輪選手には得意とするバンクや苦手とするバンクがある。ちなみに私は静岡競輪場や、もう廃止となってしまった兵庫県の西宮競輪場と、なぜか相性がよかったんですよ。西宮は球場のグラウンドに無理やり設置されたような特殊なバンクで、段差があって揺れるうえにスピードも乗らないので、苦手としていた選手が多かったと思います。でも私は、自分でも不思議なほど得意だったんですよ。 競馬では「コース適性」が重要な予想ファクターとして扱われていますが、じつは競輪の世界でも同様に、バンク適性があるのです。どこかの競輪場をホームにして定点観測していると、そのバンクの特性はもちろん、得意な選手や苦手な選手も少しずつわかってくるはず。競輪の世界でコレを把握しているファンの人は少ないでしょうから、覚えておくと美味しい車券にありつけると思いますよ!