建築総額1億7,000万円、家賃手取り年間110万円…「35年のサブリース、決断すべき?」70代不動産オーナーの絶体絶命
収支のバランスを取ることが必須
とくに建築費の借入は、30年、35年といった長期の返済期間となることが多いため、その間、賃貸事業を安定的に継続することが大前提となります。賃貸事業で家賃を得て、借入返済し、諸々の経費を支払ったあと、手元に残った現金を生活費や貯蓄などに充てられるのが事業の目的となるのです。 しかし、佐藤さんが建築会社から提案をされている賃貸事業は、1億7,000万円の借入が必要で、相続税はかからなくなるものの、35年間返済が必要にもかかわらず、年間の手取りが110万円しかないことから、メリットはないといえます。
採算ラインから大きく外れた建設会社の提案
土地を維持するために賃貸住宅を建てることは有益ですが、賃貸経営は事業でもあり、収支のバランスの見極めは重要です。想定家賃が年間918万円だとすると、利回りで考えても投資額の8%は確保したいところです。その目安で逆算すると、事業費は1億1,475万円、10%を確保したいなら事業費は9,180万円となります。 建築会社が佐藤さんに提示している1億7,000万円という事業費では、利回り5.4%となり、サブリースの受取賃料では4%。そこから返済を考えると、やはり採算ラインからは大きく外れていると言わざるを得ません。 佐藤さんにはこれらを説明のうえ、計画を見直すこと、建築会社やサブリース計画は慎重に選ぶことをアドバイスしました。
「土地ありき」ではなく、資産の組替も選択肢に
70代の佐藤さんの場合、対策を早めにしておく必要があります。選択肢のなかには「借入をした土地活用をしない」という方法もあり、アパートが空室になった時点で、建物を解体・更地で売却し、別の立地で賃貸物件に買い替える「資産組替」もあると、あわせて説明しました。 親から相続した土地は、そのままの状態で維持しなければならないと、頭から思い込んでいる方は多いのですが、いまの時代、負担や不安を減らして資産活用するには「立地を変える」ということも、検討すべきだといえます。 「建設会社からの提案は断ります。家族と相談して、今後の方向を決めたいと思います。見極めができて、本当によかった…」 佐藤さんは、心底ホッとした様子でした。 賃貸事業は20年、30年と長期に渡るため、適正な建築コストなどを判断してスタートしないと、大きなリスクとなります。サブリース契約は、貸主のメリットになるかどうか、慎重な見極めが重要です。 ※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。 曽根 惠子 株式会社夢相続代表取締役 公認不動産コンサルティングマスター 相続対策専門士 ◆相続対策専門士とは?◆ 公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。 「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
曽根 惠子