野党は「県民益」優先に 現県政、辺野古展望示せず 佐喜真氏
佐喜真淳前宜野湾市長に対するインタビューの内容は次の通り。 ―県議選で「オール沖縄」と呼ばれる玉城デニー県政の与党が大敗したが、どう受け止めるか。 「投票率は45・26%で過去最低となり、有権者の半数以上が選挙に行かなかったことは残念だ。県政の与党は野党より立候補者数が多く、与党と野党・中立の得票数だけを見ると拮抗(きっこう)している」 「与党は基本的には共産党、社民党、社大党、立憲民主党などだ。県議選ではこうした政党間の協力関係や、候補者調整が不十分だったことが敗因の一つではないか。野党は結果を単純に喜ぶのではなく、勝って兜(かぶと)の緒を締めて県民のため頑張ってもらいたい」 ―過半数を取った野党・中立勢力は玉城県政とどう向き合うべきか。 「自民党県連は東京の党本部との上下関係で動くのではなく、県民益を優先に考えたアプローチで知事に提言すべきだ。ただ辺野古移設に賛成、反対のワンイシューでは、これから先はない」 「数があるから知事の政策にやみくもに反対するのではなく、県民に寄り添い、リーダーシップを発揮して県民に沖縄の将来ビジョンを説明すべきだ。その中で2年後の県政奪還に向けたポテンシャルを高めてほしい」 ―玉城県政に対する評価は。 「県政運営は基地問題だけでなく、県民生活に根差して行われるべきだ。だが政府と連携した沖縄振興ができず、県民の期待に応えていない」 ―玉城県政の辺野古移設問題に対する取り組みをどう見るか。 「翁長雄志前知事がつくった『辺野古移設反対』の流れが始まって10年以上経過した。玉城知事は法廷闘争を繰り返すだけではなく、さまざまなアンテナを張って、この問題にどう決着をつけるか考えるべきだ。しかし私が見る限り、その手腕が感じられない」 ―辺野古沿岸埋め立て工事の設計変更承認を巡る法廷闘争は、県が最高裁で敗訴し、追い詰められた形になったが。 「辺野古移設の完了が何年後になるかは分からないが、法的には止められない。その中で玉城県政が県益、県民益をどう実現していこうとしているのか、見えてこない」 「この問題を裁判で解決することはなかなか難しく、政治家は安易に裁判をすべきではない。県政が今後どう対応していくか、知事は具体的に県民に説明する必要がある」 ―2014年の知事選で翁長氏ではなく、辺野古沿岸埋め立て申請を承認した仲井真弘多元知事が当選していれば、その後の沖縄振興はどう進展したと思うか。 「今とは全く違う方向になっていただろう。『県民のための政治』という県政のアプローチが継続していれば、10年経てば一定の結果が出たことは容易に想像できる。政府との建設的な交渉の中で沖縄振興と市町村の発展が図られ、島嶼(とうしょ)県としてのハンディや格差も少なからず是正されていた」 「県が政府を相手に裁判しながら、一方で握手するというのは難しい。知事と首相の間で、信頼度の濃い話し合いができないからだ。基地問題で沖縄と政府の関係すべてが暗礁に乗り上げるような政治環境では、県民の生活と暮らしを守ることはできない」 ―辺野古移設問題の今後をどう考えるか。 「政府は今後、最高裁判決に沿って粛々と埋め立てを進めるだろう。辺野古移設問題は(移設完了後を展望する)新たなステージに入ったと思う」 「埋め立て地に造られる代替施設は国有地だ。だが、ここまで県民の葛藤と分断が続いたことを考えると、この土地を県有地にする交渉を行うことも一つのアイデアだと思う。そうなれば米軍が代替施設に移転すると、県に土地の賃料収入が発生する。例えば年間約30億円の賃料収入として、それを子どもの貧困問題を解決する基金に充ててはどうか」 ―辺野古移設後の基地の滑走路を軍民共用とするアイデアもあるが。 「軍民共用も含め、沖縄側からいろいろなアイデアや提言を出し、チャレンジすることは大切だ。辺野古の滑走路を民間も使えるようになれば、北部と中南部のアクセスや観光も含め、幅広く県民のニーズに応えられる。こうしたアイデアは、沖縄から出さない限り議論の俎上(そじょう)に上がらない」 ―普天間飛行場の跡地利用をどう考えるか。 「普天間飛行場だけでなく、那覇軍港とキャンプ・キンザー(浦添市の米海兵隊牧港補給地区)も返還されるので、一体的な土地利用を考えるべきだ。人口が集中する沖縄本島中南部での大規模な土地返還は、沖縄にとってこれ以上ない大きなチャンス。沖縄の新たなグランドデザインを描かなくてはならない」 「普天間飛行場の跡地利用については、沖縄の地政学的な優位性を生かし、アジアの平和にも役立つよう、国連ユニセフなどの国際機関や、新たな産業の誘致を含めて政府と協議すべきだ。アジアと本土との懸け橋(ゲートウェイ)になるような跡地利用も良いのではないか」 「米軍跡地の活用に合わせて那覇空港を拡張し、国際線を増やして外貨を獲得すれば、国益にもつながり、沖縄を介して日本全体が盛り上がる。沖縄には米国総領事館も米軍もある。米国にも協力してもらえるような信頼関係が必要だ」 「好むと好まざるとに関わらず、沖縄は現在、安全保障に重要な地域となっている。琉球王国以来、今ほど日本にとって沖縄の重要性が高まった時代はない。これをチャンスととらえ、沖縄から本土に向けた新たな発信や提案があっても良いのではないか」 ―佐喜真氏の今後の政治活動は。 「まだ見通しは持っていない。少しでも県民のため、沖縄県の発展のため役に立てるよう政界復帰を目指していきたい」