ショパンが住んでいた部屋が当時の姿のまま保存された文化遺産でもある、ショーメ本店ブティックへ。
メゾンの心臓部、職人が働くハイジュエリーのアトリエは4階にある。「3年前の改装で、アトリエは広場を見下ろす場所に移されました。それは、手仕事の素晴らしさがメゾンの力であり中心である、という考えの表れ」とヘリテージ部門責任者のクレール・ギャネは言う。
そして、同じ4階にアーカイブが置かれているのも、歴史遺産はメゾンを支える柱のひとつだという考えにほかならない。窓の左右に天井まで届く書棚が聳える閲覧室が、外部の研究者や社内のデザインスタッフを迎えている。アイテムごとに整理されたグアッシュのデザイン画は6万点。受注台帳、請求書、買い取った石をすべて記帳した台帳も整然と並んでいる。
「ここにあるのは、その中のほんの5%です。この部屋は、アーカイブそのものの美しさを見せるためでもあるのです」。古のジュエリーや、作品を撮影した写真のガラス乾板30万点は、別の場所で大切に保管されている。入荷した素材の記帳から、顧客の注文書、デザインを描いたグアッシュ、完成品の写真と請求書まで。一粒の石が宝飾品として完成するまでの経過が、美しい筆跡で記録されたアーカイブ。そこには時代の好みを映し出すデザインの歴史ばかりか、メゾンを訪れた華麗な顧客の好みや人となりまでもが浮かび上がる。メゾンが保管するアーカイブピースは、時代の証人。世界中のブティックで展示されるほか、メゾンが主催するテーマ展の機会に公開されている。
奇しくも、このメゾン・ショーメのグラン・サロンにて、『A Golden Age 1965-1985』と題した展覧会が12月2日まで開催されている。王侯貴族に愛され、洗練されたティアラがことに知られるショーメだが、社会が大きく動いた70年代前後の作品は、そんな既成概念を吹き飛ばすようなエッジーなデザインばかり。
老舗ジュエラーの思いがけない面を発見させる展覧会は、グラン・サロンの歴史空間へ訪れることのできる、希少な機会でもある。
ショーメ本店ブティック
12, place Vendôme 75001 Paris France tel:33-(0)1-44-77-24-24 営)10:30~19:00(月~土) 休)日 www.chaumet.com/fr_fr/notre-maison/12-place-vendome *「フィガロジャポン」2024年1月号より抜粋
text: Masae Takata (Paris Office) photography: ©Chaumet