独りで戦い、生き抜いた――〝安楽死〟した日本人女性 病による耐え難い苦痛と、頼ることをできなくした家庭環境
難病との闘病 息抜きもできなくなる悲しみ
都内の自宅で初めて会った迎田さんは、屈託のない笑顔で迎え入れてくれた。安楽死という言葉からは、悲壮感に溢れたイメージを想起させるかもしれないが、むしろ、颯爽とした印象さえ与えた。 「もっと暗い人間を想像していたでしょ。でも、もう私の寿命だし、後悔がないのよ。最後の日が決まったから、かえって充実しているの」 パーキンソン病患者の迎田さんは7年間、闘病を続けてきた。パーキンソン病は手足が震え、徐々に体が動かなくなるなどの難病だが、それ自体で死に至る病ではない。 1日の生活を同行してみると、ほぼ全ての場面で病気の影響が垣間見えた。歩くと膝が曲がってしまうため、常に前かがみの状態で歩を進める。スーパーマーケットで品物を買うときは、お金の受け渡しが困難だ。手が震えてしまうため、料理の際は傷つけにくい包丁で、体重を乗せて食材を切った。 「何を食べても、どんなリハビリをやっても、体が次第に動かなくなっていく、進行性の難病の現実を思い知らされた。今ここで安楽死の決断をしないと、飛行機に乗ってスイスに行くことさえできなくなってしまう」 彼女にとって数少ない息抜きは、喫茶店でコーヒーを飲むことだった。しかし、行きつけの店で、飲み物を運ぶ際、手が震えてコーヒーが周囲に飛び散ってしまったことがあったという。 「周りにいた人たちがみんな、嫌な顔をしてそっと立ち上がって、私の席から離れていくの。ああ、もう、こんなこともできなくなった。楽しみがどんどん奪われていくんだなと思うと、悲しくなっちゃって」
眠れない痛み 「呼吸が止まって死んでしまいたい」
迎田さんを特に苦しませたのは、病気による「痛み」や「呼吸不全」だという。それらの症状は前触れもなく突然、やってくる。就寝中でも激しい頭痛に襲われて目を覚まし、そのまま夜を明かすことも。一晩中、頭をバンドで締め付けられるような痛み、そして、息苦しさが続くと「このまま呼吸が止まって、死んでしまいたい」と何度も願ったという。 あまりの辛さに一度だけ救急車を呼ぼうと電話をしたが、指令員に「病気が原因だから手の施しようない」と断られたこともあったと話す。 また、血の気が引くようなめまい、吐き気、慢性的に続く不快感にも悩まされることに。進行性の難病であるため、薬を強くしても効き目が悪くなり、貼り薬の影響で皮膚がただれていた。 「この病気は外見からは症状や辛さをわかってもらえないから、理解されずにずいぶん傷ついた。眠ることができないほどの痛みと息苦しさ。さらには言葉では言い表せない不快感と、一生を共にする気はない」