《東京五輪汚職で226日勾留》KADOKAWA元会長・角川歴彦氏が体験した“人質司法”の真相 小説『人質の法廷』著者・里見蘭氏と対談
生きて拘置所を出た者の使命
里見:6月に会長は、人質司法を憲法違反だとして、損害賠償を求めて国を提訴しました。 角川:前例のない訴訟に踏み切ったきっかけは、友人たちの言葉だったんですよ。先程の佐藤さんには「生きて拘置所を出られたあなたには社会的な使命がある」と言われました。「人質司法は憲法違反です」と語った著名な高野隆弁護士や、「憲法と国連に訴えなければダメです」と話す弘中惇一郎弁護士にも勇気づけられました。人質司法によって、国内の最高法規であり、ほかのすべての法令に優先されるはずの憲法で定められている基本的人権が侵害されている。だから世界人権宣言を採択した国連に訴えるしかない、と。 里見:厚労省の村木さん、プレサンスの山岸さん、そして会長……。みな個人の問題ではなく、人質司法を、もっと言えば日本の刑事司法の改革を目指して活動している。会長の言葉を借りれば、その点にもシンクロニシティを感じました。 角川:仮に代用監獄と呼ばれる留置場や、僕が過ごした拘置所に1年間で10万人が勾留されるとします。すると10年で100万人。人質司法は一般の人にとっても他人事ではないんですよ。 里見:会長の体験を知れば、社会人、経済人としての権利をすべて奪う人質司法の恐ろしさが多くの人に伝わるはずです。 角川:それでも前向きに捉えたいのが、2019年から取り調べの録音・録画が義務づけられたことです。 里見:録音・録画は、村木さんの冤罪事件という犠牲を機に実施されるようになったことも忘れてはなりません。それまで検察官は否認供述については取り調べのメモすら取らなかった。検察側にとって不利な証拠になる可能性があったからです。そんな状況を打破した録音・録画は、刑事司法にとって確かに大きな進歩です。 角川:裁判員制度も刑事司法改革の前進です。里見さんの労作は裁判員制度の実像を初めて取り上げた小説ではありませんか。裁判員制度によって、ようやく裁判官が検察ではなく、市民に向き合うようになった。 里見:ただし、いまだに人質司法がはびこる構造は残っています。しかも保釈されたからといって人質司法が終わるわけではありませんからね。 角川:そうなんです。いまも2泊3日以上の旅行には裁判所の許可が必要で、パソコンやスマホを持ってもいけない。里見さんがおっしゃったように、司法に社会権を奪われて、僕はようやく保釈された。そんな理不尽をなくすためにも人質司法が憲法違反であると訴えていきたいと考えているのです。 司会・進行/山川徹 【プロフィール】 角川歴彦(かどかわ・つぐひこ)/1943年生まれ、東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒業後、1966年に角川書店に入社。角川グループホールディングス会長、KADOKAWA会長などを歴任。現在、角川文化振興財団名誉会長。最新著書『人間の証明 勾留226日と私の生存権について』(リトル・モア)が話題に。 里見蘭(さとみ・らん)/1969年生まれ、東京都出身。早稲田大学を卒業後、編集プロダクションに所属し、ライターなどを経て2004年に『獣のごとくひそやかに』(講談社)で小説家デビュー。『古書カフェすみれ屋とランチ部事件』(大和書房)など著書多数。最新著書は『人質の法廷』(小学館)。 山川徹(やまかわ・とおる)/1977年生まれ、山形県出身。ノンフィクションライター。2019年に『国境を越えたスクラム ラグビー日本代表になった外国人選手たち』(中央公論新社)で第30回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。最新著書は『鯨鯢の鰓にかく: 商業捕鯨 再起への航跡』(小学館)。 ※週刊ポスト2024年11月8・15日号