社員をメンタルダウンに陥れる、「相談するのは相手に迷惑」と思い込む日本人気質
「もっと早く相談しておけばよかった」という社員
私がメンタル不調者にインタビューした際、多くの方が「もっと早く相談しておけばよかった」との想いを話してくださいました。そして、どの方にも2つの大きな共通点がありました。 1つめは、メンタル不調に陥った際、どこからが病気で、どこまでが健康だったのかが分からなかったという点です。これは先にも述べたところですが、重要な点として挙げたいのは、どこまでを健康な状態として「頑張らなければならなかったのか」と、未だに疑問を持たれている方も多くいらっしゃったという点です。 とくに責任感や達成意欲が強い方ほど、自分自身への対応を後回しにする傾向があります。その結果、ちょっとモヤモヤするけれど「まだ大丈夫」「もっとやれる」「頑張りたい」というように、半ば自分を励ますような形で活動を進めてしまうのです。 そして、どこかの時点で限界点を超えてしまう。そうなって初めて周囲の人から休養をすすめられたり、自分でも認識できる程の身体反応が現れたりして、やっと医療機関にかかるという選択をされます。そして、医師に病名を告げられてようやく、自分が病気であると認識するのです。 我々は、自分では自分の不調に気付けないものなのです。もし、もっと早く誰かに相談できていれば、自他ともに異変に気付き、罹患を防げたかもしれません。 2つめは、メンタル疾患の「治りにくさ」に罹患して初めて気付くという点です。メンタル疾患に対する治療は、数日で終わるものではなく、数ヶ月、数年に及びます。また、治療が完了した後も心のどこかにメンタルダウンした際の感覚が残っていて、その感覚と付かず離れず共に過ごしていくことになります。 この過程を多くのメンタル不調者が実感として持っています。誰にでもなる可能性がある病気にも関わらず、その実態を十分に理解しておらず、罹患した後に後悔している、そのような心境を吐露されます。 そして、1つめと2つめには、決定的な違いがあります。 1つめは「そうなった自分をどこか誇っている」。2つめは「そうなった自分を後悔している」です。インタビュー中、話を伺っていると、1つめは一種の武勇伝を語るような口調で、2つめは誰かを責めるような口調になります。 人事労務担当者は、このように、メンタル不調になった社員の心境は変化することを理解しておくべきです。そういったことが、メンタル不調を「私傷病」であると考える会社と、「会社のせい(労災)」と考える社員という構造に繋がっていきます。そして、当事者がメンタル不調になる過程で、適切な行動を自ら選択するのは難しいでしょう。 この状況を改善するためには、常日頃から社員へ、働く上での必要なメンタル不調に関する知識をインプットし、啓蒙することが必要です。 これまで、社員のメンタル不調の多くを「私傷病」と判断してきた結果、その責任が社員にあるとされてきました。このこと自体、事実としては間違いではないのです。しかし、社員のパフォーマンスに影響を与えるメンタル面のサポートがおざなりになってきたのは事実です。 限られたリソースで環境の変化に適応しなければならない経営環境ですが、目標設定や1on1、研修など、人事施策を検討するのと並行して、社員のメンタル面への目配りが必要な時代になっています。
藤田康男(Smart相談室CEO)