「人生はつかの間だ」映画『生きる』に見る、死ぬことより“悪い”こと
---------- 全米を代表するエリート大学の学生たちが、死を身近に感じるレッスンを受けることで、自らも語り、そして変容し成長していく。実際の感動の授業を再現。 スティーブン・マーフィ重松氏は、スタンフォード大学でマインドフルネスやEQでグローバルスキルや多様性を高める専門家として知られる。そんな著者の『スタンフォード大学 いのちと死の授業』から、すべての年代の人々へ向けて「よりよい生き方」へのガイドとなり得る章をご紹介します。 ---------- 最大の後悔は「自分の心に従わず、安全、安心、地位を選んだこと」
人生はつかの間だ
トルストイの『イワン・イリッチの死』は、死の床にある男の覚醒を描いた短編小説です。そして授業では、トルストイに影響を受けた黒澤明監督の映画『生きる』(1952年)のいくつかのシーンを鑑賞します。 渡辺勘治は30年間、同じ単調な市役所の仕事をしてきた中年男です。妻を亡くし、同居する息子と嫁は、渡辺の年金と将来の相続のことしか考えていません。仕事では役所的な無為無策に終始し、ただ流されるように生きています。 胃がんで余命1年と知った渡辺は、迫り来る死を受け入れようとします。そして、自分が死ぬことはそれほど悪いことではなく、むしろ悪いのは、自分が生きてこなかったことだと考えるのです。バーで見知らぬ男に、「僕はこのままでは死ねない。今まで何のために生きてきたのかわからないから」と、差し迫る死よりも無駄にしてきた人生に対して痛みを覚えながら言います。 彼は、東京の夜の娯楽の楽しみに逃げ込もうとしますが、それが解決策でないことにすぐ気がつきます。翌日、渡辺は若い女性、とよと出会います。渡辺は、彼女の生きる喜びと熱意を目の当たりにし、できるだけ一緒にいたいと思うようになります。渡辺は、彼女の顔を見るだけで、気分が良くなり、心が温かくなると告白します。彼は、彼女と一緒にいるときの彼女の生き生きとした喜びと生命力の秘訣を知りたいと切に願います。彼女は彼の願いに戸惑い、「私は何の役に立てるのかしら?」と尋ねます。 「あなたはとても充実している。それに比べて私は……。うらやましい。もし私が死ぬ前に1日でもあなたのようになれるなら。それができなきゃ、死ねないな。何かしたいんだ。あなたにしか私に教えられないんだ。私は何をすればいいのかわからないし、どうしたらいいのかわからない。あなたもわからないかもしれないけど、でも、お願いだから……できるなら……どうしたらあなたみたいになれるか教えてくれないか」 とよは、自分がなぜこんなに生き生きしているのかわからないが、新しい仕事であるおもちゃ作りに幸せを感じ、日本中の子供たちと遊んでいるような気がすると言います。とよは、彼に何か作るように勧めます。