前澤友作氏が勝訴しても「なりすまし」は止まらない…フェイスブックが詐欺広告排除に後ろ向きな根本原因
■前澤氏の主張が認められない可能性 前澤氏の訴訟はどうなるだろうか。あくまで筆者の予想ではあるが、海外での訴訟を見る限り、「1円の損害賠償」は可能性があるだろうが、メタ社が詐欺広告を放置していることについて「彼らの行為が違法なのか合法なのかまずははっきりさせたい」という点については、前澤氏が訴状で主張する「メタ社の不法行為」の主張が認められないかもしれない。 メタ社は「対策はしているが、現在の技術では詐欺広告のすべてを捕捉できない」と反論することが予想される。 また、この主張が虚偽だと証明する証拠を原告側が用意するのは困難である。一方、日本政府は6月にまとめる予定の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」で、メタ社などプラットフォーム事業者に広告審査基準の公表や、詐欺に使われたアカウントの迅速な削除などを要請する対策を盛り込むと、朝日新聞が報じた。しかし、これはあくまでも「お願い」に過ぎず、運用はメタ社次第であるため、あまり効果はないことが予想される。なぜなら問題の核心は、メタ社のビジネスモデルそのものである「ターゲット広告」にあるからだ。 ■根本原因は「メタ社の広告ビジネスの仕組み」にある 詐欺広告が蔓延している根本原因が、メタ社の広告ビジネスの「エコシステム」、すなわちユーザーの関心に沿って広告が表示される仕組みにあるのは間違いない。 メタ社は広範な個人データ収集を通して、ユーザーのみならず、非ユーザーの興味関心とネット上の行動まで知り尽くしている。 投資詐欺広告がよく配信されている人たちは、おそらく過去に何らかの形で投資や金儲けに興味を示したことがある。 詐欺師の側はそうした層を狙い撃ちにするノウハウを持っており、残念ながら、ワナに引っかかる人は必ず一定の割合でいるのである。
■Facebookが「カモになりやすい人」を探して来る ブルームバーグ傘下のビジネスウィーク誌は、2018年、そうした詐欺師の一人にインタビューしている。詐欺師は「Facebookの広告配信アルゴリズムはわれわれのために、わざわざカモになりやすい人を探して来てくれる」と語った。 メタ社が詐欺広告に故意に関与しているわけではない。だが、メタ社が運営するビジネスモデルが、構造的に詐欺を生みやすいものであるのは確かだろう。 ■「Facebook・Instagram・Xを使わない」が唯一の対策 そもそも、技術的に対策できないというメタ社の主張は本当だろうか。 詐欺サイトとしてフラグが立てられたURLをクリックしようとすると警告文を出す、といった仕組みを用意することは現在の技術でもできるのではないか。ほかにもメタ社の技術力をもってすればできることはたくさんあるはずだ。 現時点ではメタ社の後ろ向きな姿勢ばかりが目立つが、今後はさらなる取り組みが求められるだろう。 また、消費者側も、詐欺広告がまかり通るFacebookやInstagram、Xなどを使わない、あるいは利用回数・時間を減らすことで、テック大手に詐欺広告対策を迫る必要があるかもしれない。 ユーザーの利用が減ると、SNS企業は広告料収入が減るからだ。おそらく、メタ社にとってこれがイチバン堪えるだろう。 消費者自身がプラットフォーマーに対してもっと力を行使していく必要があるのかもしれない。 ---------- 岩田 太郎(いわた・たろう) 在米ジャーナリスト 米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の基礎を学ぶ。米国の経済を広く深く分析した記事を『現代ビジネス』『新潮社フォーサイト』『JBpress』『ビジネス+IT』『週刊エコノミスト』『ダイヤモンド・チェーンストア』などさまざまなメディアに寄稿している。noteでも記事を執筆中。 ----------
在米ジャーナリスト 岩田 太郎