最期の点滴はどうする? 枯れたように…患者さんにとっては楽な旅立ち【老親・家族 在宅での看取り方】
【老親・家族 在宅での看取り方】#124 在宅医療の現場では点滴が必要になることも少なくありません。 末期がん患者がたどる経過について周囲が知っておくべきこと 一般に人間の水分量は、成人男性で体重の約60%、子どもでは70~80%といわれています。その水分を患者さんの口から取れていれば問題はありませんが、何らかの理由で口からの摂取が難しくなった場合に点滴が行われます。 点滴の最大の特徴は、血管から直接投与されるために、速やかに全身に回ることだといえます。 そしてこの点滴の目的はさまざまです。例えば発熱時。体内の水分量が減少して脱水症状となるのを防ぐために水分補給が必要となりますが、口から水分を取ると嘔吐や下痢を起こしてしまうことがあります。そういう時に点滴が役に立ちます。 それもただ水分補給をするだけでなく、ナトリウムやカリウム、カルシウム、マグネシウムなどといった筋肉細胞や神経細胞の働きに関わる電解質といわれる成分が含まれた点滴を投与する場合が少なくありません。 胃や大腸などの消化管の病気を患ったり、手術直後で口から食事を取れなくなった患者さんの場合では、口から栄養を取る代わりに、エネルギー源となる糖質や脂質、タンパク質、ミネラル、ビタミンなどの補充を点滴により行います。 その他、特殊なケースではありますが、毒物をのみ込んでしまった時や大量に薬物を摂取したために急性中毒となった患者さんの治療法として、緊急に利尿薬とともに点滴をし、毒物の排泄を促すことがあります。 しかし、そんな点滴もお看取りが近くなった患者さんの場合は話が少し違ってきます。 よくお看取りが近くなった患者さんのご家族から、弱っていく患者さんの姿を見かねて、点滴を入れてほしいとの要望をいただくことがあります。ですがお看取りが近くなると、水分や食べ物が欲しくなくなるものなのです。 患者さんの体は水分や食べ物を受け付けなくなり、徐々に脱水状態になっていきます。これは意識が薄らいできて、本人にとっては楽な状態になるといわれており、一般的に、尿が出なくなったら2~3日くらいでお別れといわれています。 またその時は、低酸素血症もしくは末梢循環不全からくる、口唇や四肢末梢などの皮膚や粘膜が青紫色になるチアノーゼがみられたり、不規則な呼吸を繰り返したりします。 むしろ点滴を入れると腎機能が落ちた体はむくみ、かえって痛みを感じる人もいらっしゃるのです。 もちろんさまざまな考え方があります。しかし点滴をあえて勧めないクリニックもあり、「枯れたように逝く」と表現する医師もいるほどです。当院ではご家族にご説明したうえで、最終的にはご家族に意思決定いただくようにしています。 大切な人の最期。なかなか冷静に向き合うことは難しいものです。ですがこの最期の患者さんの変化を知っておくことだけでも、より心の準備は整うのではないでしょうか。 (下山祐人/あけぼの診療所院長)