Photo： Brian Rea/The New York Times

本当は人生の目標としている、手に入れたいと思っているものがある筆者。話したことがないその望みを、彼女は占い師に見事言い当てられる。 この記事は、愛をテーマにした米紙「ニューヨーク・タイムズ」の人気コラム「モダン・ラブ」の全訳です。読者が寄稿した物語を、毎週日曜日に独占翻訳でお届けしています。

現実的ではない望み

できる限り自分のことを隠したくて、署名シートに偽名を書いて婚約指輪をポケットに入れた。携帯電話のボイスメモアプリを起動し、バッグに入れる。香木のパロサントが焼ける鋭い香りが鼻につき、目が潤む。 著名人も通うことで知られるこの有名なタロット占い師のもとへ来るのは、初めてだった。カードをシャッフルしながら、彼女は「録音してもいいですよ」と言った。 まだ録音をはじめていなかったふりをしながらバッグに手を入れつつ、これが詐欺であることを示すものがないか部屋を見回してみる。カードを3つの山に分けた占い師は、そのどれかに手を置くよう言った。私は真ん中の山を選んだ。それが自然に感じられたから。彼女はカードを一枚ずつひっくり返していく。 カードを見ながら彼女は言った。「あなたは2年以内に家を手に入れますよ」 固まった。家に関して何も言っていないのに、彼女は私が抱えている唯一の疑問に答えてくれたのだ。 霊能者、タロットカード占い、占星術。私はそのどれも信じていなかった。他の星座と牡牛座の基本的な相性については知っていて、会話についていけるよう、星座占いに関するステレオタイプなコメントにうなずくことはできる。 その手のものに懐疑的になったのは、子供の頃、テレビで霊能者の宣伝を見たときからだ。希望を抱いた人々を食い物にする業界のように感じた。ちなみに言うと私は不可知論者で、ほとんど何も信じていない。 そんななか、私はテレビ番組の脚本のパイロット版を書くために透視について調べていたので、友人に引っ張られてロサンゼルスから2時間の郊外にある、有名なタロットカード占い師を訪ねたのである。 新型コロナのせいで1年以上失業していた私は、新しい職に就いて4ヵ月目だった。銀行口座は大打撃を受け、新居の目処などこれっぽっちもない。経済的に難しく、家について訊くような状況ではなかった。でも、興味はあった。 「あなたは2年以内に家を手に入れますよ」 顔がピリピリして鼻の奥がツンとするのを感じながら、この女性の前で泣かないよう必死だった。一瞬にしてすべてを感じた。私は彼女の顔をしっかりと見つめ、インチキであることを証明するものを探していた。 私の表情に、彼女は戸惑っているようだった。普通ならいいニュースだろう。けれどこれまで私が経験してきたことを考えると、期待する余裕はない。ここへ来るにあたって私が用意してきた人生の大きな疑問が、家に関するものだと友人に話すことさえ恥ずかしかった。それがどれだけ馬鹿げて聞こえるかわかっていたからだ。 私が本当に欲しいのは家だなんて、誰も知らない。目は涙でいっぱいになり、占い師が言ったことは後で録音を聴くまで、他に何も聞き取れなかった。