GPIFの運用資産益が2年連続黒字 収益プラスは年金額に反映されるの?
7月6日に年金積立金管理運用独立行政法人(以下、GPIF)が発表した「平成29年度業務概況書」(以下、西暦表示)によるとGPIFの運用資産額は156兆3832億円となり、2016度末の144兆9034億円から11兆円強も増加しました。運用収益率は+6.90%と2年連続でプラスを確保。この結果、2001年の市場運用開始以来の累積収益は63.4兆円となりました。 以下では、GPIFの運用状況について確認した後、GPIFについてよくある誤解について触れていきたいと思います。
2016年度に続き、国内外の株式が収益に大きく貢献
まずGPIFの運用資産の配分を確認すると、2017年度末時点では国内債券が27.5%(約44兆円)、国内株式が25.1%(約41兆円)、外国債券が14.8%(約24兆円)、外国株式が23.9%(約39兆円)でした。これは2014年10月に発表された基本ポートフォリオ(国内債券35%±10%、国内株式25%±9%、外国債券15%±4%、外国株式25%±8%)に概ね沿ったもので、それ以前に比べると国内外の株式のウェイトが約2倍になっています(2014年10月以前の国内外株式の資産配分割合は12%程度)。2017年度の資産別収益率は国内債券が+0.8%、国内株式が+15.7%、外国債券が+2.7%、外国株式が+10.2%でした。2016年度に続き、国内外の株式が収益に大きく貢献した形です。
GPIFの運用資産が年金財源の全てではない
このように株価が大きく上下しGPIFの資産が変動した際に、しばしば観察されるのは「株価変動が年金財源に直結」するといった誤解です。GPIFが管理運用する国民年金、厚生年金保険料の積立金は上述のとおり160兆円程度と巨額ですが、結論を先取りすると、それは将来の年金財源のごく一部に過ぎませんから、その存在感が過大評価されている印象です。2015年度にGPIFが5兆8000億円(▲3.8%)の損失を計上した際などには「株安で年金崩壊!!」といった過激な声が聞かれましたが、そうした声の主の中には「GPIFの運用資産が年金財源の全てである」と誤解している人が含まれていたように思えますし、またそうした誤解を招く表現が数多くあったように感じます。 GPIFもこうした誤解が生じていることを認識している模様です。この点について運用業務概況書には「年金給付の財源(財政検証で前提としている概ね100 年間の平均)は、その年の保険料収入と国庫負担で9 割程度が賄われており、積立金(←GPIFの運用資産※筆者加筆)から得られる財源(寄託金償還又は国庫納付)は1割程度です。年金給付に必要な積立金は充分に保有しており、積立金の運用に伴う短期的な市場変動は年金給付に影響を与えません」と記述しています。要するにGPIFが運用している160兆円のおカネは今後100年間に給付される年金の1割を担う存在でしかないのです。 日本の年金制度は、その時々の現役世代の保険料負担で、その時々の高齢者世代を支える「世代間扶養」の考え方が基本とされています(賦課方式といいます)。すなわち、年金の主要財源の「主役」はその時々の現役世代が払う保険料(及び税金)であり、GPIFが運用する額は飽くまで「脇役」に過ぎないということです。ちなみに2017年度の年金給付総額は約55兆円でしたから、GPIFの運用資産が年金財源の全てであるとしたら、3年も持たない計算になります。 GPIFが運用する巨額の資産は、もとを辿れば私達が納めた年金保険料ですから、それがどのように運用されているかチェックすることが重要なのは言うまでもありません。しかしながら、監視の厳しさが度を越すと、GPIFが短期的な損失を回避するために運用の基本である長期投資を放棄し、パフォーマンスが悪化するという弊害を招きかねません。2001年に市場運用が開始されて以降、GPIFの累積収益率は+3.12%とこの間の賃金・物価上昇率、長期国債利回りを明確に上回っています。今後、GPIFが損失を計上した際は、再び「株価下落で年金危機」といった声が飛び交いそうですが、そうした短絡的な声から距離を置くことが重要と考えます。 (第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一) ※本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。