「部下の手柄は俺のもの!」評価も報奨金も横取りするモンスター上司の末路とは
● 自分が開拓した乙社の実績が、B課長のものに? 8月下旬の昼休み、休憩室から部屋に戻る途中廊下を歩いていたAは、C専務に呼び止められた。 「A君、B課長ってすごいね。本社に来て3カ月もたたないうちに、乙社との大口契約を取り付けたとは。君のいい報告も期待しているよ」 「えっ?」 Aは首をひねった。 「乙社は自分が3年前から通っていたところだ。先週いよいよクロージングって時に、B課長に上司として同席してもらったけど、乙社を開拓して取引をまとめた自分の業績になるはず……これはおかしいぞ」 席に戻りパソコン作業の続きをしようとしたAのもとに、Dが慌てた様子でやってきた。 「A主任、聞いてください!私が3年越しに通い詰めてアプローチをかけていた丙社の件ですが、B課長が自分の手柄としてC専務に報告したんです。部下の手柄を横取りするなんてひどくないですか?許せない!」 「どうしてそう思うの?」 「さっきC専務に言われたんです。『B課長はここにきて間もないのに丙社との契約をとれたのはすごい。だから君も、もっと頑張れ』だって。ふざけるな!丙社を獲得したのはB課長じゃなくて俺なんです」 「じゃあ、B課長はクロージングに同席しただけ?」 「そうです」 B課長はC専務にはあたかも自分が新規開拓したかのように報告し、部下が獲得した新規の取引先を横取りし、自分の手柄にしていたのだ。Aはますます腹が立ったが、C専務の話だけでは横取りした確たる証拠がないので、B課長への確認はしばらく待つことにした。
● 新規顧客を開拓した報奨一時金が入っていない 10月15日の給料日。Aは給料明細書を見て確信した。 「やっぱり。乙社を獲得した時の報奨一時金が入っていない」 甲社の営業は基本ルート営業だが、自分で新規の取引先を探すこともでき、契約が成立した場合には、課長を通じてC専務に報告することで、成立した月の翌々月の給与で報奨一時金が支給されることになっていた。その金額は契約内容によって5万円から20万円までの4段階があり、AやDは契約の規模からして20万円支給の対象だった。それに加え、勤務成績優秀者となれば、年2回の賞与の査定が上がったり、人事査定のプラス要素になったりする。そのためメンバーたちは新規顧客の獲得を積極的に行い、相乗効果で年々会社の業績も伸びていた。 AはDにも報奨一時金の有無を確認したが、やはり支給されていなかった。そればかりか、報奨一時金の対象だった他のメンバーたちからも「おかしい。給料に入っていない」と不満の声が上がった。 ● 「みんなやる気をなくしたのかなあ」 その日の夕方、AはC専務に呼ばれた。 「8月と9月で10件の新規取引契約があったけど、みんなB課長が取ってきてるんだよね。他のメンバーは6月以降1件も報告がない。いつもだったら最低3件はあってもおかしくないのに……みんなやる気をなくしたのかなあ。君、何か心あたりはない?」 Aはきっぱりと言った。 「B課長が、部下の手柄を横取りしているんです」 「どういうこと?」 「B課長が外出するのは、既存取引先へのあいさつまわりか、部下が獲得した新規取引先へのクロージングに同行するときだけです。乙社は私、丙社はD君が新規開拓した取引先です。しかし今月の給料に反映されるはずの報奨一時金がありませんでした。他のメンバーにも該当者がいましたが皆同じです。一体どうなっているのか調べていただけますか?」 「そんな、B課長がそんなことをするなんて……。信じられん」 「C専務はB課長のことがお気に入りでしょうが、このままだと皆がやる気をなくします。そのうち誰かが退職するかもしれません。私だって考えちゃいます」 「ダメだダメだ!これまで既存取引先の売り上げ増加に貢献し、新規顧客も積極的に開拓してきた君に辞められたら困るよ」