時空と障害を超え、アートの可能性を追求する「みずのき美術館」: "他の人と違う"のは褒め言葉【アート×福祉で社会課題の解決を目指す】
子どもたちが展覧会にやって来た!
それでは、児童がみずのき美術館を訪れた日の様子をのぞいてみよう。
美術館に入るとまず目に飛び込んで来るのが、天井からつり下げたタペストリー風の作品。3回目のワークショップで子どもたちが描いた絵を、美術館のスタッフとさくら学級の先生らが、大きな布にパッチワークのように縫いつけた力作だ。
山本さんが出したお題は「太古の昔から今にいたるまで、土の中で眠る生き物」。近づいてよく見ると、妖怪やお化け、ワニとも恐竜ともいえない動物、異星人のような謎の生命体など、AI(人工知能)では決して生成できないようなユニークな生き物ばかりだ。 初めて完成品を見た子どもたちは「わぁ、こんなところに僕の絵がある!」「あそこに、××ちゃんが描いたネッシーの頭が見えるよ」と歓声を上げ、長い間見入っていた。
2階に上がると、板に描いた絵が、床や棚にさまざまな角度で置かれている。木の枝を土に挿して根付かせる「挿し穂」を、児童が写生したものだ。その挿し穂の横には、 “土の中で根が生えてくる瞬間”を想像し、「ニョキニョキ」「ゴトゴト」といった擬態語が添えてある。
奥のスペースに進むと、冒頭の「木の心」がでんと置かれている。この作品のためにあつらえた台の上に展示してあるので、自由な発想力がより際立っていた。
子どもたちは、自分の粘土細工を見つけて大興奮。思わず手に取ってしまう子もいて、作品が少しずつ変化していく。それでも“アートに正解はない”ので、奥山さんは怒るどころか、「置く場所を変えたい子は手を挙げて! 今日が最後のチャンスだよ」と笑顔で呼びかけていた。
美術館の所蔵作品とも共鳴
この展覧会を、山本さんは『地球のおとしもの』と名付けた。授業を受け持つうちに「子どもたちのまっさらな目には、私やあなた、木も土の中の生き物も、地球上にあるもの全てが、同列の落とし物のように映るのではないか?」と感じたという。 ともすると子どもたちの作品に目を奪われがちだが、壁に展示してある絵画も見逃せない。約2万点もあるみずのき美術館の所蔵作品の中から、山本さんがさくら学級の作品と呼応すると感じた絵をセレクト。自分たちの作品でないと気付いた子どもは「あれ? 僕もこの(古びた)画用紙に絵を描いてみたい!」と指さすなど、大いに刺激を受けていたようだ。 所蔵作品は、知的障害者の支援施設「みずのき寮(現・みずのき)」内にあった絵画教室で、当時の入所者が描いたもの。緻密すぎるほど細かく描かれた模様や、強烈な色彩で塗り込んだ円形の連なりなど、どれも心の奥を揺さぶってくる。